(作・演出/大野 拓史)
観劇しました。
とりあえず、感想の要点を。
2回、泣きました。(1幕の最後と2幕の最後)
礼華はるさん、素敵すぎました。(役に対する没入感・同化ぶり)
月組が素晴らしすぎました。(抜群のチームワーク)
感想を書くのですが、あらかじめお断りしておきます。
申し訳ありません。
むちゃくちゃ雑にまとめると、市井のひとびとーー特に、最近注目されている「見えないひとびと(invisible people)」、映画でいうと是枝裕和監督の「万引き家族」や韓国映画の「パラサイト 半地下の家族」みたいなーーの悲哀を余情豊かに描いているということになるかと思いますが、ひとはどうやって悪人になっていくのか、汚れていくのか。転落し、自己喪失していくのかという重い問題に正面から取り組んだ作品であるとも言えると思います。
問題の多い社会システムを変えられない条件下、ひとはどうやって生き延びていくのか、どうやって自分自身に言い聞かせて騙すのか。汚れるしかない自分を忘れて、自分を見ないように生きていくのか。
他人事みたいに書いていますが、殺人こそしていなくても、人間、生きていれば悪いこと、道徳に悖ることもします。
そうして、幸蔵のように一定のラインを越えてしまうと、二日酔いの頭痛をやっつけるのに迎え酒をするような状態になっていく。
はっきり言って、幸蔵は、クズなんです。ダメンズなんです。
でも、自分がクズであるばかりか、クズとして生きるしかない運命だということまで自覚しているクズには、いわゆる「善人」「善良な市民」の持ち得ない人間の「ふくらみ」ーー月の光や影にさえ救いを求めてしまう、自分の存在を消してもらいたいと願う、やるせない衝迫があるようにも思うのです。
とても普遍的な劇ーー現代的、同時代的な話だと感じました。
礼華はるさんの演じ方は、文字通り、完璧でした。
他の月組のジェンヌさんで幸蔵役をやれるひとは、礼華さん以外、思い浮かびません。
当たり役だと思います。
実に美しい、「人間のふくらみ」のあるクズ男でした。
余韻嫋嫋、素晴らしい舞台をありがとうございました。
劇場から阪急宝塚駅への帰り道に咲いていたあじさいが、実にきれいでした。
6月には、『月の燈影』を思い出すことになると思います。