長崎堂@大阪・心斎橋のシュガーボンボンを買いました。
商品名はクリスタルボンボン。
田辺聖子さんの小説「苺をつぶしながら」に登場するお菓子だそうで、おそらく彼女自身も食べたのでしょう。
砂糖の殻の中には洋酒が入っています。
白色にはコアントロー(オレンジ風味)、うすいピンク色にはマラスキーノ(さくらんぼ風味)、うすい青色にはアニゼット(アニス風味)。
見た目もですが、このリキュールの風味が、いかにもヨーロッパな雰囲気を醸し出します。
本当、少女時代の夢のような(「少年時代の夢のような」、「少女の夢のような」ではないのです)甘さと香りです。
砂糖の殻が溶けて中の洋酒が舌に触れるや、魔法が解けたようにあっけなく殻が砕け、夢のような甘さだけが香りとともに口に広がる。
本当に儚(はかな)い。
儚くも幸せな気分にさせるお菓子、幸福と切なさが同居するお菓子ってなかなかない。
今は複雑なーー豊かな、と言うべきでしょうかーーお菓子は流行りません。
足し算、掛け算、「相乗効果(シナジー効果)」の世の中ですから。
足していけ、組み合わせろ、「○○力」だの「リスキリング(reskilling)」だの要求水準ばかり高くなる。
砂糖と洋酒のシロップだけでできたクリスタルボンボンが作り出す世界は、「相乗効果」だの「付加価値」だの、「プレミアム」「デラックス」という利得めいた浅ましい世界の対極であるように思います。
「プレミアムとか、うるせえよ」と昨今の情勢にうんざりしかかっている方には特におすすめしたい砂糖菓子です。
割れやすい繊細なお菓子ということもあり、心斎橋本店のみ(ネット販売なし)、しかも数量限定販売です。
おすすめします。
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【後記】この「クリスタルボンボン」が登場する、田辺聖子さんの『苺をつぶしながら』をどうしても読みたくて、神戸市立中央図書館に行きました。
(中略) この店へきたら、どこにも売ってない、ここにしかない「長崎堂のボンボン」を買わなくちゃ、ならない。それこそ夢みたいな色なのだ。うすいピンクとうすいブルーと白、この三つの色の、小さな粒々、まるでビーズかボタンか宝石みたい。小さい函にぎっしり詰ってるところは、ちょうど首飾りの緒が切れて、とりあえずこぼれる珠(たま)を、あつめて入れときました、という風情である。それをそっと口にふくむと、甘いこうばしい洋酒が口いっぱいにひろがって、それも、ほんとに小さい粒だから、舌先だけ一瞬、かすかにとまどいながら酔う、そうして甘さと香ばしさは余韻をのこして消えてしまうという、夢色ボンボンなのである。
(田辺聖子『苺をつぶしながら』 〜『田辺聖子全集』第6巻、集英社、2004、610ページ)
さすが田辺聖子先生!!
「買わなくちゃ、ならない。」と
「そこに『、』入れますか!」と舌を巻く(ここでリズムを溜めたくなる気持ち、わかります)素晴らしい一節です。
初めから引用抜粋しておけば良かったかな・・・