統計学やランダム化比較試験（RCT）に泣く臨床鍼灸　〜論文研究の鍼灸だと「有意差がない」理由〜

きょうは「統計学やランダム化比較試験（RCT）に泣く臨床鍼灸」連載第２回。

復習を兼ねて・・・第１回では

◎ランダム化比較試験（ＲＣＴ：Randomized Controlled Trial）という、統計学的にきっちりした結果が出る方法で行われた治験で行われる鍼灸の結果はたいてい「有意差はなかった」。

◎鍼灸の統計学的有意差が出にくい理由は二つある。その一つは

「鍼灸が、個体差が大きく、外部環境のわずかな変化に影響されやすい『生体の自律神経の機能』に依存した治療法だから」

ということで、今回がもう一つの理由です。
実は第一の理由と密接に結びついています。端的に言うと

「論文を書くために行われる鍼灸のやり方では基本的に『効かない』から」

どういうことか？
これにも二つ理由があって

（１）論文執筆で行われる学校教育・養成機関で教えられるツボの選び方や鍼の打ち方は非常に思弁的で、ほとんど空論に近い（「理論のための治療」にすぎない）から

（２）鍼の響きの程度、被験者の感受性などは数値化できないから

まず（１）について。
実際の臨床では、患者さまの状態に応じて、いろいろ足したり引いたりします。
ツボの位置もころころ変わるし、教科書に載っていないところに反応点＝治療点が出ることはしょっちゅうです。
鍼の太さを変えることもあります。
鍼灸院によっては、整体やカイロプラクティック、瞑想、コーチングなどの別の手法も採りいれたりします。

ところが論文に書かれる治療法は、本当にルーティンだし、解剖生理学的に効くとは考えにくい方法も結構あります。
どうしてそういう方法を採用するかというと、部外者には信じられないことですが

「むかしの医書や教科書に書いてあるから、偉い先生の治療法がそうだったから」

なんです。
続いて（２）について。
たとえば、花粉症と鍼についての論文。

Ann Intern Med. 2013 Feb 19;158(4):225-34. doi: 10.7326/0003-4819-158-4-201302190-00002.

Acupuncture in patients with seasonal allergic rhinitis: a randomized trial.

Brinkhaus B1, Ortiz M, Witt CM, Roll S, Linde K, Pfab F, Niggemann B, Hummelsberger J, Treszl A, Ring J, Zuberbier T, Wegscheider K, Willich SN.

結論は

Acupuncture led to statistically significant improvements in disease-specific quality of life and antihistamine use measures after 8 weeks of treatment compared with sham acupuncture and with RM alone, but the improvements may not be clinically significant.

統計的有意差は出たが、臨床的有意差はないであろう（要するに実用に供しがたい）

ということなんですが、問題はシャム鍼というイミテーションの鍼の刺激量です。

本物かイミテーションか分からない刺激量って、どうなの？

少なくとも「はりねずみのハリー鍼灸院」では基本的に鍼を深く刺し入れるので、本物の鍼の刺激かイミテーションの刺激かどうかは一発で分かるはずです。

でも、この種の実験においては、被験者が「わたしは本物の群なんだ、にせものの群なんだ」とわかってしまうようでは失敗なのです。

結果、生体に与える刺激量としては問題にもならない小ささ。

さらに言うとプラシボ（偽薬、思い込み）効果の問題もあるのですが、これは別の機会に書きます。

人の侵害感覚や「どの程度をもって効いた、改善したか」という主観を平準化した数値で表現できないーーこのへんが、鍼灸が統計学的に有意差が出ない原因だと、わたしは思うのです。

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＊＊＊

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