きょうも臨床の裏話を。
患者さま--特に初めて鍼治療を受けられる患者さま--に
「それでは鍼を打っていきましょうか」
と言うと、たいてい次のような質問をされます。
(1)「鍼って痛いんですか?」
(上級編「本当に痛くないんですか?」)
(2)「鍼打ったら効くんですか?」
(上級編「本当に効くんですか?」)
(3)「どうしてそこに鍼打つんですか?」
(上級編「別に痛くないですけど」)
鍼灸師泣かせの質問から、今回は
(2)「鍼打ったら効くんですか?」
にお答えしたいと思います。
結論―—臨床での印象―—から言うと、
「やってみないと分かりません」
なんです。
個人差が大きい。
なぜか。
わたしの考えでは―—鍼灸師の大御所の先生から「東洋医学を侮辱している」とお叱りを受けそうですが
(1)プラセボ効果(暗示)によるところが大きい
(2)鍼灸治療の効果(治効)が患者さまの体質に依存している
から。
で、今回は、(これは鍼灸治療に限ったことではないんですが)
「プラセボ効果による治療」
について。
「信じるものは救われる」「イワシの頭も信心から」というやつです。
「医」の字の旧字体は「醫」ですが、上の部分は「悪霊退散のために発するシャーマンのかけ声の音」または「矢を神殿に納める(現在神社で授けられる「破魔矢」のように、矢には悪霊を退治する力があるとされていた)一種のまじない」、下の部分は薬酒の入った壺と言われています。
字の起源からも分かるように、むかしの医学はシャーマニズム(祈り/呪術)と密接に結びついていました。
病気が起きるのは悪霊が取り憑いているからで、その悪霊を追い祓うのが治療である―—
そもそも効く、治すとはどういうことか?
西洋の近代医学では、
「病変(正常でなくなってしまった細胞や組織)を取り除くこと」
でしょう。
でもわたしは
「病気に対する不安を取り除くこと」
だと考えています。
病気は心の持ちようというのか、まさしく「気」の問題だということです。
極端な話、がん細胞におかされていようと高血圧や糖尿病にかかっていようと、当人が不安を抱えていなければ病気ではない。
逆に、病変が認められなくても
「おれホンマにこの先大丈夫なんかいな」
と気に病んでいれば、病気です。
今の西洋医学では、そういうのは「神経症」か「自律神経失調症」にまとめられてしまいますが。
問題は精神疾患だけではありません。
たとえば加齢に伴う生理的変化があります。
「疲れが取れにくくなった」
「夜中に目が覚めるようになった」
「性的機能が落ちた」
「しわやしみが増えた」
「最近物忘れが――ところでオレ今どこですか?」
など。
「歳をとるってそういうことなのさ」と悟れれば問題ない、たとえば顔にしみができたからといって生物学的にはどうということはないはずなんですが、実際はというと、しみを取るサプリメントやしみを隠す化粧品、レーザーによるしみの除去などのアンチエイジング業界が大盛況です。
わたしでさえ、最近できた右の目の下のしみをちょっと気に病んでいる。
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鍼灸治療は東洋医学・東洋思想と密接に結びついていますが、東洋思想そのものになじみがない分、何だか神秘的で、ありがたいイメージを持ってしまうのも無理からぬところです。
その東洋医学・思想に詳しい(ことになっている)鍼灸師の先生から
「気の流れがよくなった」
「気血の巡りがよくなった」(「瘀血(おけつ)がなくなった」)
「邪気が消えた、なくなった」
と自信を持って言われると、何だかよくなったような気になる。
それでいいのではないでしょうか。
それで前向きな気持ちになれるのであれば。
プラセボだろうと何だろうと、効果が出ればいいんです。
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それでは鍼灸治療は暗示療法にすぎないのか? ただのインチキか? と言うと、もちろんそんなことはありません。
次回は、科学的視点から「鍼灸治療が効く原理(治効理論)」をお話ししたいと思います。
今回はその予告篇として、要点を。
「神経や感覚器に刺激を与えることで体性―内臓反射を起こしストレス反応(汎適応症候群)へ導く。これが鍼灸の治効メカニズムである」
もっと端的に言えば
「鍼灸治療の目的は治癒系(神経系―内分泌系ー免疫系)を賦活するストレス反応(汎適応症候群)の誘発である」
この文章の意味、今は分からなくていいです。
「何のこっちゃ」で全然いいです。
逆に、この文章を理解できたひとは、これから数回に分けて書く記事を読まなくていいです。