ここは、小さな店にしがみついて生きている人たちが群れ集う町だったが、それでもここまで将来を憂いている人にはお目にかかれなかった。明日も何とかなるだろう、そんな開き直りにも似た心情がどの人の顔にも表れていたが、私たちにとって、今日と同じ明日の先に待っているものは、生活の破綻という紛れもない現実だった。心静かに、天の御心のなすままに、などとオツにすましているわけにはいかなかった。
「そうじゃないよ、ショー君。こうだよ、こう。やってごらん」
サンの小屋の昼であった。ご機嫌で大好きなあんかけ焼きそばを食べていた息子は、父親に言われるままにしぶしぶと真似をしてみたものの、すぐに自己流の持ち方に変えてしまった。
「パパちゃんの言う通りにすると、うまくはさめないんだもん」
「そうか…。ちゃんと躾けなかった親の責任だな」
「忙しくて、私の目が行き届かなかったせいだわ。でも、こんなに小さい子に向かって二本の棒で食べろっていうのは酷な話だと思うわ。そういう私も、持ち方おかしいし」
「子どもって、皆、こんなもんかね」
「似たり寄ったりじゃないかしらね。幼稚園のお母さんたちも言っていたわよ。ちゃんと教えなくちゃならないのはわかっているけど、忙しくてそんな暇がないって。ショー君を見てもわかる通り、一度自己流の持ち方になっちゃうと直すのは難しいわね」
「ご馳走様。お外で遊んでいるね」
「じゃあ、お帽子をかぶらなくちゃね。お庭が土けむりですごいから、お水をまいてあげるからね」
息子が遊びやすいように庭を片付け、水をまいて戻ってみると、小谷野はしきりに箸を持つ動作を繰り返していた。
「何をやっているの? 焼きそばが冷めちゃうわ」