声にはね起きた。(来た、ついに来た! 差押えの令状だわ!)。激しい動悸に襲われた。心臓麻痺を起さないのが不思議なほどだった。(逃げたら、余計に苦しくなる。問題を先送りしても始まらない)。気力を振り絞った。印鑑を取り出すと、助けてくださいと念じ、ドアを開けた。そこには、怯えとは無縁といった配達人の笑顔があった。「和泉様から現金書留です。印鑑をお借りします」現金という言葉を耳にした途端、全身の力が抜けた。(良かった! 差押えじゃなかった)。ひきつるような笑顔が浮かんだ。「ご苦労様です」平静を装いはしたものの、印鑑を差し出す手は小刻みに震えていた。何事もなかったように配達人を見送ると、震える足をなだめるようにして茶の間にへたり込んだ。(開けなくても、内容はわかっているわ…。ネットには協力できないっていうんでしょう。ああ、これで、友達って呼べる人は、一人もいなくなってしまった…)。その夜、四畳半のわずかな隙間にビールの盆を置き、向かい合っていた。「ネットをやると人を失うっていうけど、親友にまで愛想を尽かされちゃったね。申し訳ないよ、まったく」「いいのよ。友達っていうものに懐疑的になっていたし、生きるステージが変わったせいだろうけど、瑤子とも昔ほどには心が通わなくなってきていたんだから。でも、寂しくないって言ったらそれは嘘になるわね。一緒に生きていた時代もあったわけだから…」「黙っていたけど、俺も大学の奴らから冷たくあしらわれたよ。やめときゃよかったよ」「でも、あの時は断るわけにはいかなかったもの。谷川さんには仕事を回してもらっているっていう負い目があったし、ひょっとしてうまく行ったら、たまっている税金を払えるかもしれないっていう淡い期待を抱いたのも確かだし」「浅ましくも、小金に惑わされた罰だよ」苦いビールを、喉に通した。