3.5次元の不倫 -21ページ目

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

(「名前の何がいけないんでしょうか?」「お二人とも総画数が最悪なんです」「総画数?」夫は、そう言ったきり、憮然とした表情で押し黙った。こんな言葉に耳を貸すようになったら終わりだ、そう考えているに違いなかった。「名前はその人そのものです。悪いものは悪いものを引き寄せます。戸籍上の名前は簡単には変えられませんから、手っ取り早い方法は、印鑑で画数を変えてしまうことです」(なんだ。この人、印鑑を売りつけたいんじゃないの)。興ざめであった。長いは無用であった。小谷野が、この場の幕を引くように言った。「印鑑の件は、よく検討してお返事します。しかし、我々はよっぽど的外れな人間なんでしょうね」「掛違いということですかね」「掛違い!」顔を見合わせた。が、申し合わせたように、それ以上の質問はしなかった。聞いても始まらないというのが、偽らざる気持ちだった。が、<掛違い>ということばだけは、耳にへばりつき、用意に離れようとはしなかった。 毎週火曜日は、新聞の求人欄がにぎわいを見せる曜日だった。<クリエイティブ>の欄に、在宅編集者募集の文字を探していた。が、冷え込みの厳しい業界に、目ぼしい仕事などありはしなかった。怒りとも焦りとも怯えともつかない気持ちが嵩じて、理性がこわれた。(何よ、役立たず!)。新聞に罵声をあびせると、クシャクシャに丸めて部屋の隅に投げ捨てた。(どこに行って、誰と会えば道が開けるんでしょうか、教えてください)。叫んで、テーブルにつっぷし、そのまま、うとうととまどろんだ。夜の眠りが浅いため、変な時に突然、こうして眠気に襲われるのだった。「書留です」