3.5次元の不倫 -19ページ目

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

谷川則夫は、三木本氏を通して知り合った小さな印刷会社の社長であった。時々、編集の仕事のおこぼれにあずかるなどして、助けられる事が多くあった。そんな谷川が持ち込んできたのが、ネットの話であった。恩義の大きさの前に、断る勇気は持てなかった。

しかし、結果は、案の定の惨敗であった。そして、友が去って行ったのだった。

「私、谷川さんを恨んでいないわ。助けてもらったんだし、本音を明かさない人ばっかりの中で、彼は正直だったもの。お互いに苦しいんだから、何とかしましょうって、腹を割ってくれたんだから。でも、彼もネットは散々みたいね」

「ああ。散々らしい。前に会った時は、帰ると金のことで言い争いになるから、つい居酒屋に寄ってしまう。それで、また喧嘩になるって苦笑いしていたよ。」

背中を丸めて、赤ちょうちんの暖簾をくぐる谷川則夫の姿が脳裏をかすめた。

キャッシュディスペンサーの前で、通帳を手にして、立ちすくんでいた。小谷野の予感は当たっていた。谷川則夫からの入金はなかった。電話をかけるも応答はなく、呼び出し音だけが虚しく耳に残った。駆けつけた事務所のドアは固く閉じられていた。倒産を知らせる手紙が届いたのは、およそ一週間後のことだった。

 それからおよそ一か月後、有理社が会社更生法を申請した。太いロープがぷっつと切り落とされ、パッシブエイトといい名前のゴンドラは、真っ逆さまに地面に墜落したのだった。

「懸命に働いたのに、倒産とはねえ。しかし、生活のほうは、どうしたんだい。おいそれと、仕事も見つからないだろう?」

「はい。それは、もう死にもの狂いでした。吾朗は、宿直、私は家政婦やヘルパーをやって食いつなぎました。何年かして、吾朗は営業の仕事にありついたんですが、今度は、固定給がないという有様で…」

「それはまた、残酷な話だね」

固定給のない生活。それは、精神的に、かつてないほど過酷な日々であった。