第十三章 因幡の白兎
和の心づかいが宴舞する、堀川の朝餉を楽しんでいた。檜の桶で供された湯豆腐を口に含むと、木の香がプンと心地よく鼻をつき、寝不足の脳を覚醒させた。
「湯豆腐もこうやって出されると、ただのお豆腐じゃありませんね。お豆腐様って呼ばなきゃいけないような気になってきます」
「まったくだね。豆腐は好きだからよく食べるんだけど、普段なんか、下手をするとパックからそのまま食べたりするからね。すべからく、雅でありたいね」
御方様は、豆腐を崩さずに、リズミカルに口に運んでいた。見るともなく、その箸先に目が行った。再会の興奮で、昨夜は気にも止めなかったのだが、きれいな箸づかいだった。箸の先端から二センチくらいのところで物を掴み、挟み、それより上は全く汚すことがなかった。
(箸の所作は品性を表すっていうけど、本当にそうだわ。ほらね、どう考えても、着眼点は悪くはなかったのよ。それなのに…、昨日の夜、布団に入ってから、自分も辛いし、聞く方も不愉快だろうから、あの件だけは話すのはやめようと考えていたんだけど、やっぱり全部話そう。この一件にこそ、先達の一言が聞きたいもの)。気持は固まった。
「お箸さばきがとてもきれいですね。初めて気がつきました」
御方様は、満更でもない様子だった。