第12章 サンの小屋(3) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

翔太と名付けた息子の子育ては、予想外の連続だった。夜こそグッスリと眠ってくれたものの、昼間は起きている時間の方が長く、活発に動き、夏の夜のカナブンよろしくでんぐり返ったりしてしまうため、全く目が離せなかった。眠らない赤ん坊、番狂わせの始まりであった。

生後四ヶ月になると、早くも歩行器にまたがった。そして、九ヶ月の誕生日には、母と姉が見ている前でスタスタと歩いてみせるというパフォーマンスを演じてくれた。母と姉は相好を崩し、小谷野は興奮した。

「いやあ、見せ場をつくる男だ。大物だ!」

「三十三時間もかかって念入りに生んだんですからね、一味違って当然よ」

「この母にして、この子あり。恐れ入りました。師匠と呼ばせて下さい」

小谷野は、どこまでも上機嫌だった。

息子の早過ぎる成長、親としてこれ以上の喜びはなかった。しかし、熟練編集者が母親になればなるほど外注費は増大し、収入は目減りする一方だった。どうしたものかと頭を悩ませている最中に短期勝負の仕事が入り、思い余って家政婦紹介所に問い合わせをしてみたのだった。

(この仕事を毎年やらせてもらえれば元はとれる。設備投資だと考えるしかない。一日六千円は痛いけど、他で節約しよう。当面、晩酌は取りやめだわ。小谷野さんには悪いけど、そうするしかない。ご免ね)。

受話器を取り上げた。