第11章 駆け込み乗車(12) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「そりゃもう…。小谷野さんが可哀想、仕事はどうしよう、ローンが払えなくなるってね。まだ見ぬ苦労に怯えるなっていう教えもあるのに、だらしのないものよ

「一人で悩んでいないで、電話の一本もくれれば良かったのに」

「その気力もなかったのよ。しばらくして、コーヒーの臭いに救われたのよ。ムカムカしたから。これって、つわりっていうやつかもしれないって、心臓が飛び出しそうになったのよ」

「小谷野さんはどうした? 喜んだでしょう?」

「ただただ驚いて、口をアングリっていう感じだったわ。あれだけ徹夜をして、よく無事だった。貴女は、不思議なパワーを持っているって、感に堪えたような顔をしていたわ」

「そうでしょうね。だけど、どうしてすぐに病院に行かなかったの? 取るものも取り敢えずっていうのが普通でしょう?」

「お金がなかったのよ」

瑤子が顔を歪めた。

「言ってくれれば良かったのに。何でそうやって突っ張るの? お母様だって、一も二もなく協力してくれたはずよ」

「そうなんだけどね、心のどこかでまだ妊娠を疑う気持が残っていたし、もし本当に子供が出来たんなら、それこそ高齢出産でどんなにお金がかかるかもしれないから、ここで余分なお金は使えない。今は、自己管理しようって決めたのよ」

「小谷野さんはそれでいいって言ったの?」

「言うわけないでしょう。でもね、話し合っているうちに、小谷野が突然、あっ、マリアの受胎だって言ったのよ。私も、そうだ、そうなんだわって思ってね、毒舌のマリアから懐妊のマリアになりましたって言ったわけ。すごく厳かな気持になったわ。彼も自分の言った言葉に安心したみたいでね、マリアの受胎だから大丈夫だねって納得するように言って、それからは、私の好きなようにさせてくれたのよ」

「卯月は言い出したら聞かないからね。でも、相当ハラハラしていたと思うわよ。お気の毒だわ」