第11章 駆け込み乗車(3) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

母性をいたわられる事に不慣れなためか、看護婦の言葉はいささかこそばゆく聞こえた。診断の結果が出た。妊娠五ヶ月の半ば、胎児は順調、母親の健康状態も良好、憂慮すべき点は何もなかった。心の中に、燦々と陽光が差し込み、ひとしきり至福であった。が、母への報告を考えると、何とも気が重くなった。妊娠の兆候を打ち明けもせず、相談ひとつしなかった事で、母が疎外感を感じるに違いないと考えると、自分という人間が持つ異常なまでの自立心が疎まれさえした。(報告が遅くなってご免ね。出来れば私だって、お母さん、赤ちゃんが出来たのよって、喜色満面に打ち明けるような娘になりたかった。でも、そんなふうに素直な娘になるには、家庭環境が歪み過ぎていたのよ。私だって苦しいんだから、勘弁してください)。「もしもし、卯月です。お元気ですか?」「ちょっと、卯月。ちっとも連絡してこないで、心配するじゃないの。あんたこそ、元気なんでしょうね?」「元気にしています。あのう、ビックリしないでね。私、子供が生まれるの」「ヒェー」受話器の向こうで、母が腰を抜かさんばかりに驚いている様子が察しられた。「今、検診が終わったばかりなんだけどね、模範的な妊婦だって褒められたわ」「それで、何ヶ月なの?」「五ヶ月の半ばだって」「ええっ、もうそんなに大きいの?」「そうなんです。胎児は順調、母体も元気、憂慮すべき点は何もありませんって言われたわ」「五ヶ月って言ったら、遠からず生まれるんじゃないの。こんなに大事な事を何で今まで黙っていたの? どうしていつも親をないがしろにして勝手な行動ばっかりとるのよ。これでもあんたの親なのよ!」案の定、母は怒髪天を突くといった、腹の立てようであった。