第10章 二番煎じ (11) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

小谷野は、豪快にビールを飲み干した。虫の息に近かった小谷野の<>が息を返しつつあるようで、心が躍った。

(あの店がつぶれた遠因が尊厳にあるとしたら、どこかであきらめがつくような気がする。時は薬とはよく言ったもんだわ。インベーダーみたいに店を占拠した彼らが憎たらしかったし、運命を呪いもしたけど、今ではこんなふうに掘り下げた考え方ができるようになった。どんなに絶望的な目に遭っても、生きる事だわ。行き続けているうちに、何かが見えてくる。振り返って、何よりも有り難いのは二人とも元気でいる事だわ。再生の兆しも見えてきて、こうして焼肉なんか食べている。もしかすると、今、幸せなのかもしれない)。焦げ臭い煙の中に、頬を赤くした小谷野の笑顔が揺れていた。

美校社からの二、三の仕事を断り、三木本さんから与えられたトライアルの仕事に全力を傾注した。その甲斐あって、初仕事は高い評価をいただき、我が社は正式な業者に登録された。順調な滑り出しだった。しかし、これで生活の目処が立ったとばかりに安堵したのも束の間だった。目の前に、予想だにしなかった現実が立ちはだかり、船出早々にしてパッシブエイトは大ピンチに立たされてしまった。

それからしばらく経ったある日、就職情報誌の仕事を終えて帰宅してみると、小谷野は手枕で寝転んでいた。(何かあったんだわ)。第六勘にピンときた。

「ただいま。具合でも悪いの?」

「おう、お帰り。どこも何ともないけどさ…」

「でも、何かあったんでしょう?」

「ああ。まったく少し良くなるとすぐこれだ。嫌気がさしてくるよ、実際」

「一体、どうしました?」

「さっきね、請求書でわからない点があったから、三木本さんに電話をしたら外出中でさ、経理にかけ直したんだよ。そこで、大変な事がわかったんだ。あそこはね、法人の場合、二十万円以上は手形なんだそうだ」