第8章 香 華 (10) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

御方様は、ちゃんと居住まいを正し、深く頭を下げた。その姿に、精神のバランスが崩れ去った。忘れようと努めてきた敗北感、挫折感や憤りが大きな塊となって突き上げてきたのだった。

「なぜなんでしょう。人の生血を吸うような人なのに、オコリンボは社長に納まって金も名誉も手に入れたっていうのに、人間らしい生き方を求めて会社を辞めた人の人生は私も含めてジリ貧で、オコリンボの一人勝ちを指をくわえて見ているだけなんです。そう考えると、あんまり悔しくて、駆け出したくなるんです」

「人生とは不条理なものだ。考えるにね、オコリンボのような人間はね、我々とは執念が違うような気がするんだよ」

「執念ですか」

「うん。こうなってみせるぞ、絶対にこれを手に入れてみせるぞっていう執念が常人の何倍、何十倍ものマムシのような執念が遺伝子の中にあるんだよ。その遺伝子は、何代にもわたるものかもしれない」

「前世からの執念となると、とても勝負にはならないですね」

「そうだね。だからさ、憤怒とか悔恨の情を残して死ぬのはまずいんだよ。天気晴朗なりっていう終わり方をしなくちゃならない。理屈ではわかっていても、これがなかなか難しいんだけどね」

「おっしゃる意味はよくわかります。ここまで、我欲を捨てて生きようとすればするほど業火にあぶられて、なぶり殺しにされそうな歳月を生きてきて、心の中がヘドロで一杯になってしまいました。この辺りで過去を総括しておかないと、先へ進めそうもないんです。本当は、もう少し結果を出してから意気揚々とお会いしたかったんですけど、どうしてもお会いしたくなったんです。恥も外聞もかなぐり捨ててのお電話でした」