「しかし。すごい事をやったもんだなあ。こうやって振り返ってみると、本当に自分がやった事かって、信じられない気持ちだよ。若かったんだなあ」
「自分でも、恐れを知らなかったってつくづく思うわ。でもここからがね…」
「丸裸になって精一杯の誠意を示したんだから、第二の人生はそこそこ立ち行くだろうぐらいに考えていたわ。知らずの甘ちゃんだったから」
「僕もそうだよ。また一所懸命働けばなんとかなると思ってた。たかが会社を辞めただけで、生存そのものが脅かされるとは、毛ほども考えていなかった。ボコボコにされてよく無事だった。冷や汗が出るよ」
「病気にもならず、気も狂わず、守られたとしか考えられないわね」
「それにしても一度落ちると浮上するのはむずかしいね。こんな状態で御方様に合う事になって貴女に申し訳ないね」
「悔しい思いが無いといったらウソになるけど、強がりじゃなく、自分達を誇らしく思っているのは確かなのよ。でも、正直なところ、生きてきたアカが一杯たまっていて、吐き出さないと前に進めないのよ。御方様に会わなくちゃ、博士の件だけじゃないのよ、自分のために、どうしても」
「貴女の気持ちは、痛いほどわかっているつもりだよ。心のクリーニングをしてくるといい。泊まりがけだから、思う存分、話せるよ。だけど、心憎いひとだね、旅館代は心配するなって言うんだから」
「そう」日時を書いたメモに宿泊代はトーホー持ちのことを快諾されたしって書いてあった。しびれたわ」
「御方様の年齢になるころには、僕たちもそういう心づかいができる人間になっていきたいね。人間的にも、経済的にも」
「きっと、そうなりましょう。人生の持ち時間はまだ、残されているもの」
「そうだね。こっちはショー君の飯をつくって、貴女の報告をたのしみに待っているよ。きっと何かが変わると思うんだ」
「そうね」
東京へは、博士の霊と二人連れになるかもしれないと、本気で考えた。そのことに、恐怖心は全くなかった。