潮が引いた。穏やかな口調に戻っていた。
「今日ね、新プロジェクトの責任者の話を断ってきた。実質上の退職届だ」
「ご免なさい。何も知らなかったから、一人で調子に乗ってイイ気になって」
「いや、悪かったのはこっちだ。彼の態度を聞いた瞬間、万歳したい気持だった。これで貴女の方は心配が減ったと思って心底ホッとしたんだよ。でも、彼の心境を考えると良心の呵責に苛まれる。まだ若くて子供もいない貴女を自分の物にしてしまう事が許されるのかとか色々考えちゃってね。正直なところ、疲れているのも事実だ」
「気分転換が必要なのかもしれない。もっと、自然と接するとか」
「うん……。ねえ、車を買おうラよ。ローンなら何とかなるだろう」
「そうしましょう。週末にはドイブですね」
翌日、私達は、足取りも軽く中古車センターを訪れた。
「いらっしゃいませ。私、責任者の岩城といいます。気に入った車はありましたか」
「社長さんですか。こりゃあ、話が早くて良かった。車の目星はついたんですけどね、手元不如意なもので頭金なしのローンにしたいんですよ」
「いいですよ。頭金なして最長五年のローンが組めます」
「そうですか。それで、必要書類な書類としては…」
「面倒なものはありません。お勤めの方でしたら所得証明と、住民票と……」
「あっ、住民票!」
二人は、異口同音に叫んで顔を見合わせた。