「二ヵ月前に、仕事で出かけた帰りにお疲れ様のお酒を飲みに行ったんですけど、その席で小谷野さんに辛辣な事を言ったんです。<私は子供もいないし、ローンもないからまだしも物が言えるけど、小谷野さんはお辛いでしょうね。理想的な家庭を維持するために、大事な物を失いつつあるんですから。それは、魂の自由ですって口走ったんです」
「へえ、面と向かってよくそこまでズバッと言えたもんだね。その辺りがウーちゃんの魅力なんだけどね。それで、小谷野さんは何て言った」
「あんまり真剣な顔で聞いているから、怒らせてしまったのかと思ったんですけど、そうではなくて、<辛辣な事を言われたのにすごく幸せな気分なのは、言っている事が愛情に満ちているからだ。あなたは毒舌のマリアだ>って言いました」
「ふーん、なかなか的を得た事を言うね。毒舌のマリアか」
「それでも飽き足らずに、オコリンボとの関係で小谷野さん自身がすごく悩んでいるのだとしたら、何とか自分を取り戻す方法はないものかと思うんですがってズケズケと言ったんです。そしたら、辞める寸前まで思い詰めた時、もう一度だけ頑張ってみようと決心して空を見たら、ものすごい光がさしてきて、それを神のエールだととらえたなんていう心の内を話してくれたんです」
「なる程、随分と純粋だね。分別盛りの男がそこまで正直に自分の内面を曝け出すなんていう事はまずないからね」
「そうなんです。へえー、そうなの、あら意外だったわ、って思っているうちに、家庭の事にまで話しが及んで、それぞれの結婚生活がとっくの昔に空疎なものになっていたという事を打ち明けあったというか、わかったんです」