地獄と天国 ~前編~ | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

昨日の朝。

 

10時半前

くらいだったか。

 

私の携帯電話に

着信があった。

 

画面を見てみると、

市内局番で固定電話。

 

 

こういう場合。

 

迷惑電話やセールスだったという

経験は、恐らく皆無。

 

大抵、私の電話番号を

知っている誰かが、

 

何かしら用があって

かけてくる。

 

 

 

だから、

昨日も電話に出た。

 

 

 

 

「○○さんの娘さんの携帯電話ですか?」

 

「はい」

 

「私は○○病院の看護師のWといいます」

 

 

 

 

 

はい...?

 

 

 

 

病院からの電話で、

良い知らせがあった記憶はない。

 

 

嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

Wさんのお話を

かいつまんで書くと。

 

 

今日、あなたのお父さんが

検査で来院する予定なのだが、

まだ来ていない。

 

待合席には

見当たらない。

 

検査室に行ってみたけれど、

そこにもいない。

 

個人名を出すのはどうかと思うが、

館内放送で呼び出してみようかとも

考えている。

 

どうしましょうかと。

 

 

 

 

父は、その病院に

入院したことがある。

 

きっと、入院記録が

残っているのだろう。

 

 

Wさんは、父に電話をしたものの

誰も出ないので、私の携帯電話に

かけてみたとのこと。

 

 

数年前の脳梗塞の後、言語障害が残り、

電話でのやり取りが困難になったため、

父は携帯電話を持っていなかった。

 

 

 

 

私は、現在、父は高齢者施設にいて、

病院へは、そこからバスで

向かうはずだと伝えた。

 

 

 

Wさんは、とても親切な方で、

 

 

 

「それでは、その施設に連絡してみます」

 

 

 

こうおっしゃってくださったので、

有難くお願いすることにして、

一旦、電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、少し経って、

同じ番号から着信があった。

 

Wさんだ。

 

 

 

 

 

「お父さん、バスに乗るって言って、

出かけたそうなんです」

 

 

 

 

 

え...?

 

 

 

 

ここで、少し

血の気が引いた。

 

 

 

 

 

「すみませんが、病院に来てもらえませんか?」

 

「分かりました。支度して、すぐに向かいます」

 

 

 

 

 

電話を切った後、支度していると、

今度は施設から電話があった。

 

病院から、電話があったとのこと。

 

 

 

 

 

「お父さん、今日は検査があるからと言って、

朝ご飯も抜いて、バスの時刻に合わせて

出かけたんですけどね」

 

 

 

 

 

ここでまた、

血の気が引いた。

 

 

 

 

 

「どなたか、父がバスに乗るところを

見た方はいますか?」

 

 

 

 

 

その施設は、バスの停留所に

なっているのだが。

 

バスは建物の前ではなく、

敷地内の長い坂を大きく半円状に

下り終えた先の道路に停まるため、

位置的に、施設から人の乗降は見えない。

 

 

施設のスタッフさんは、

いつも通り玄関まで

父を見送ってくれたそうなのだが、

 

実際に、父がバスに乗ったかどうかを

見た人はいなかった。

 

 

 

 

 

「父に何か変わった様子は

ありませんでしたか?」

 

 

「いえ...」

 

 

 

 

 

一体、父に何があったんだろう...

 

 

 

 

病院までの道すがら、

色々なことが脳裏をよぎる。

 

 

 

 

神様

亡くなった母

これまでの父とのこと

 

 

 

 

 

病院の受付で名乗ると、

すでに話が通っているらしく、

 

事情を説明することなく、

対応していただけた。

 

 

 

 

待合席を奥まで見渡してみても、

父らしき姿はなかった。

 

 

 

 

しばらくすると、

Wさんが来てくれた。

 

 

 

 

 

「お父さん、バスを降りるところ、

間違えたんでしょうかね...?」

 

 

 

 

 

父が利用するバスは、

その病院の前に、

他の病院にも停まる。

 

 

 

 

 

「いや、それはないんじゃないかと

思うんですけどね...」

 

 

 

 

 

父は半月ほど前、

この日に乗るはずだったのと

同じ時刻のバスに乗って、

 

別の検査を受けるために

来院していた。

 

 

そんなに短時間に

記憶が飛んでしまって、

 

降りる場所を間違えることは、

恐らくないと思った。

 

 

しかも、この病院は終点だ。

黙っていても、必ず停まる。

 

「つい、うっかり」するのも、

なかなか難しいように思う。

 

 

 

 

 

「そうですよね...」

 

 

 

 

 

Wさんは、とても親身になって

お話をしてくださった。

 

お忙しいはずなのに、

本当に有難かった。

 

 

 

念のため、病院のバス乗り場にも

行ってみたが、やっぱりいなかった。

 

 

 

その後、

父の主治医と話をし、

 

その足で、今度は

父の施設へと向かった。

 

 

 

 

 

昨日は暑かった。

 

外はカンカン照りで

気温は33℃超え。

 

熱中症警戒アラートが

出ていた。

 

 

 

 

この空の下。

 

もし父が、どこかで

倒れているとしたら。

 

 

 

 

夜には、親戚と葬儀屋に

連絡することになるかもしれない。

 

 

 

 

半ば腹をくくった。

 

 

 

 

もしもの時には、子供たちに

なんて話せばいいんだろう...

 

 

 

 

 

施設に向かう途中。

 

バスのロータリーや、

公衆トイレを覗いてみるものの、

人影はない。

 

あまりの静けさと暑さ、

そこに空の青さと高さが相まって、

 

まるで白昼夢を見ているような

気がした。

  

 

 

 

 

誰か倒れていないだろうか...

 

 

 

 

 

緑色の草がぼうぼうに茂った

歩道に目をやりながら、

施設へと車を走らせる。

 

ハンドルを握る手も顔も

自ずと強張る。

 

 

 

 

が。

 

やはりというか、

何と言おうか。

 

 

施設にも

父はいなかった。

 

 

 

 

「これから、探しに行こうと思ってます」

 

 

 

 

スタッフさんが

こうおっしゃってくださった。

 

 

この暑い中。

 

本当に申し訳なくも、

大変に有難くもあり。

 

 

 

 

とにかく。

とにかく。

 

父を探さねば。

 

 

 

一旦、うちに戻ることにした。

 

 

 

帰宅する車中、

病院から着信があった。

 

朝とは違う部署だ。

 

 

 

 

 

「お父様、ご心配ですよね。

こうなったら、なるべく早くにですね、

警察にご連絡なさったらいいんじゃないかと...」

 

 

「警察には、直接出向いた方がいいんですかね?

それとも、まず電話した方がいいんでしょうか?」

 

 

「そうですね。とりあえず先に電話を...云々」

 

 

 

 

 

そうなのだ。

 

私の父は、

行方不明。

 

どうやら

捜索願が必要。

 

これが現実。

 

 

 

 

落ち着け、私。

 

まだ父に何かあったと

決まったわけじゃない。

 

 

 

 

もしかしたら。

もしかしたら。

 

病院に行くのが嫌になったか、

急に気が変わったかだけかもしれない。

 

今、どこかで買い物でもしてる

かもしれないじゃないか。

 

 

 

 

とりあえず。

 

うちに帰ったら、

バス会社に電話して、

 

父らしき人が乗っていなかったか

問い合わせてみよう。

 

 

本当にバスに

乗ったかのどうか。

 

 

まずは、そこから

確かめないと...

 

 

 

 

こんなことを考えながら、

自宅に戻った。

 

 


 

 

 

 

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