あれは、
夜だったのか。
それとも、
明け方だったのか。
今の季節は、
どちらの時間も
同じように暗いから、
私には分からない。
居間の中は電気が灯っていて
明るかったが、
娘が指差した、ベランダの
辺りは暗かった。
「パパ!」
真顔の娘の指先を
目で追うと、
格子状のベランダの外に
夫が立っていた。
暗くて、昼間のようには
はっきり見えないのだが、
帽子をかぶって立っている
その姿は、紛れもなく師匠だった。
一言も発することなく、
私は玄関へと走った。
外庭に面したベランダへ向かうには、
一番近いルートだから。
先生を見つけて
抱きしめた。
やっぱり、
言葉は出て来ず。
ただただ、
抱きしめた。
と。
ここで
目が覚めた。
夢だったのか....
辺りは真っ暗。
私は布団の中だった。
そういえば。
今晩はクリスマスイブだったな。
もし。
日付けが変わってたら、
今日はクリスマス。
そしたら。
この夢は、先生からの
クリスマスプレゼントって
ことになるのかな...
夢から覚めてすぐ。
ふと、こんなことを考えた私は、
枕元に置いてあるデジタル時計に
手を伸ばした。
時計の頭の部分を押すと
ライトが光り、その下の
液晶画面を照らしてくれる
仕組みなのだが。
00:00 00
思わず、
自分の目を疑った。
00:00 01
00:00 02
でも。
その後も時計は、
こう時を告げ続けた。
クリスマスになんて。
まったく頓着しない人
だったのに...
今年は、
色んな事があった。
6月。
父が入院。
同月半ば。
風呂を掃除中に
滑って転び、全身打撲。
一週間近く、
のたうち回った。
8月。
父が転院。
11月終わり。
父が高齢者住宅に入居。
そこに至るまでの
紆余曲折や葛藤。
父が面倒を見てきた
叔父の今後のこと。
詳細は「一休み」の方で
書くつもりなので、
ここでは省きますが。
私にとってみれば、
大変な年だった。
初めてのことばかりな上に、
具体的なことをお願いしたり
頼ることのできる身内が、
周りに誰もいなかった。
私に何かあれば。
それこそ。
万事休す。
子供たちの生活も。
入院している父に
必要な諸々の手続きも、
物品の差し入れも。
私自身の生活も。
すべて止まる。
風呂場で滑って転んでみて、
そのことが身に染みて
よく分かった。
私が倒れたら、
我が家はお終い。
このプレッシャー。
体を動かすことのできない状態を
実際に経験した私にとって、
よほど大きなものだったのだろう。
父の病状や、
今後のこと。
叔父のこと。
心配。
不安。
ストレス。
疲労。
よく眠れない夜が
いくつもあった。
今から思えば。
取り越し苦労も
多かったのだが。
なにせ。
すべて初体験。
おまけに、元来。
小心者で心配性。
父が入院してから、
ずっと体調が悪かった。
絶えず。
体のどこかが痛い。
節々が叫ぶ。
違和感。
不快。
不調。
ブログの更新も
儘ならないほどだった。
加えて。
ずっと心も重かった。
見方によれば。
今年の私は、不運に
見舞われたのかもしれない。
でもね。
風呂場で
滑って転んでも。
骨折した
様子はなかったし。
父や叔父のことも。
色々あったし。
今も色々あるし。
これからも
色々あるだろうし。
現在進行形のまま、
落着を待っている
案件もあるけれど。
でもね。
少しずつでも
前に進んでいる感がある。
そして。
今日の夢。
亡くなった師匠が
夢に出てきたことは
今までに何度もあるが。
先生の体に触れた夢は、
今日が初めてだった。
生前。
抱きついたとき。
いつも伝わってきていた
ごつごつとした骨の流れ、
固い筋肉の感触。
そして、ぬくもり。
どれもこれも。
残念ながら。
夢の中で感じることは、
できなかったけれど。
でもね。
それでもいい。
夫を亡くしてから
8年と半年を過ぎて。
ようやく、
もう一度。
抱きしめることが
できたのだから。
お疲れ様。
もしかしたら、
あのおっさんは。
こう伝えにきてくれたの
かもしれない。
恐らく。
師匠からだったのであろう、
クリスマスプレゼント。
切ないけれど、でも。
とても嬉しい。
先生。
お陰様で、子供たちは
無事に冬休みを迎えることが
できました。
どうもありがとうございます。
どうやら。
どんな時も。
子供たちや私の
背後やら周りやら
生活圏内には。
いつもいつも。
あの男が存在しているらしいことを
改めて認識した、今年のクリスマス。
忘れ難く、
有難い日になった。
先生。
メリークリスマス。
プレゼントを
どうもありがとう。
皆様。
どうか良いお年を。