「エイリアン、この男プロにつき」の巻 | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

ある日、エイリアンにこう言ってみたことがある。





「ねえ、誰かに教えてみたら?」





鍼灸専門学校の校長と知り合いだと聞いたことがあった。





「うーん....」



「ねえ、どう?」



「イヤよ。」



「どうして?」



「..................」



「ねえ、どうして?」



「自分よりヘタな人に教えると、自分もヘタになるよ。」





私から目を逸らして、ボソッと呟くように答えた。





なにそれ?
まあ。よくわからないけど、本人がイヤだって言うんならね。





数年後、永六輔氏の『芸 その世界』を読んでいた時のこと。

こんなフレーズに行き当たった。




宝生九郎は自分の門下に、素人に稽古をつけるのを厳禁した。
自分の芸が落ちてしまうという理由だった。




思わずハッとした。
あの日、エイリアンが言ったことと同じだ。




宝生九郎は能楽師。エイリアンは鍼灸師。
たとえ道は違っても、プロが言うことは同じなのだと痛感した。



なんて馬鹿なことを言ってしまったんだろう。



たとえ夫婦であっても、弟子である以上、
決して口にしてはいけないことだったのだ。


私は自分の無知と軽薄さが、とても恥ずかしかったと同時に恐ろしかった。


あの日の師匠に、謝りたい気持ちで一杯にもなった。
結局、今日まで謝らずじまいのままなのだが...






それにしても、この男。

普段は、本当にどうしようもないおっさんなのだ。
些細なことも決められずに迷う。



「ねえ、いつの飛行機に乗ればいい?」




自分で決めろ、自分で。あんたが乗るんでしょ?




「ねえ、これどうするほうがいい?」




こっちが訊きたいわ。




あのね。私はママじゃないの。
年の差からいっても、頼りにしたいのは私の方なんだけど?





ところが...



「治療した後、あの人の治療は、
こうした方がよかったかなって思うことあります?」



「ないよ。」



「ああ、あれは失敗だったかもって思ったことは?」 



「ないよ。」



「今まで一度も?」



「ないよ。」






きっぱり即答。




こうも変わるものか...?




エイリアンは、自分の腕が落ちるリスクを承知の上で私を弟子にしてくれた。
とても感謝しているが、そのことを面と向かって師匠に伝えられないでいる。


どうしたものかと、ここ何年も思案中だ。