就職活動をしなかった私は、大学在学中に始めたアルバイトを
卒業後もそのまま続けていた。
お昼休みは、バイト先の近くの公園でお弁当を食べることが多かった。
ある日、ベンチに座って食べていると、ちょっと離れたところから
こっちを見てる清掃員風の人がいた。
あの人、なんでこっち見てんだろ。
ゴミ捨てないように見張ってんのかな...
げ。こっちに向かって歩いてくる。
私の周りには誰もいなかった。
どうしよう...
落ち着け!何も捨ててないだろ。
「こんにちは。ちょっといいですか?」
中国語訛りがある。
「はい?」
「ちょっとね、これ見てほしいんだけど...」
その人が差し出したのは、
わけのわからない文章がズラッと並んだ紙。
何これ...
「腎臓(冬)は肝臓(春)の母親」 「肝臓(春)は心臓(夏)の母親」
「心臓(夏)は脾臓(長夏)の母親」 「脾臓(長夏)は肺臓(秋)の母親」
「肺臓(秋)は腎臓(冬)の母親」 「肝臓(春)は腎臓(冬)の子供」
「心臓(夏)は肝臓(春)の子供」 「脾臓(長夏)は心臓(夏)の子供」
「肺臓(秋)は脾臓(長夏)の子供」 「腎臓(冬)は肺臓(秋)の子供」
「このように臓器と四季には親子関係があるので、
季節によって特に大事にしなければならない臓器があります。」
「ねえ、これ読んでどういう事だかわかる?」
わかるわけないだろ。
頭いかれてんのか、このおっさん。
「うーん。ちょっとわかりませんね。これは何ですか?」
「私が書いてる文章よ。わかりにくい?」
だから、そう言ってんだろ。
後になって聞かされたが、これは彼の治療院のチラシに使う文章だった。
「どうすればいい? どういうふうに改善?」
「私にはよくわからないので、何とも答えようがないんですけど...」
そう言いつつも、とても熱心に訊いてくるので、
説明してもらいながら、どうにか答えた。
「また訊きに来てもいい?」
「はい。いいですよ。この近くでアルバイトしてて
天気の良い日はここでご飯食べてますから。」
どういうわけだか、こう言ってしまった。
そう。頭がいかれてるのは私の方。
まったく見ず知らずのおっさんなのに...
これが、後に師匠兼夫となる地球外生命体との出会いだった。
ちなみに、このエイリアンが清掃員みたいに見えたのは
ただ単に服のセンスが悪かったからだ。
どうみても作業着だった。
あれが普段着だったとは...
この男、女房以外の趣味は滅法悪い。
誰だ。いま笑ったのは!
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