抽出温度を変えると味が変わる。抽出時間を変えると味が変わる。どちらも正解である。コーヒー抽出には欠かせない設定条件である。しかし、どちらも成分の溶解の一要因としての存在でしかない。と考えている。
“水温を上げて抽出するのは何故なのだろうか。”“何故、水温が低いと、抽出時間を長くしなければならないのだろうか。”と考えるうちに、“水の温度が高いとはどの様な状態なのだろうか。”という壁(疑問)にぶち当たるはずだ。これを迂回しては抽出のイロハも語る事は出来ない。最も重視されなければいけないメカニズムである。
水面が滑らかなコップの水は、平静を装って見える。これを分子レベルで観察すれば、どれもが運動しているのが解る。温度が上がり、膨張するのは運動量が大きく密に結束できない状態だからである。喩え、0℃になって凍っても振動という形では動いているのである。エネルギー“0”の-273.15℃(絶対零度)に達するとすべてが停止する。水を熱する=エネルギーを加えると次第に激しく振動/移動をするようになる。この運動量=溶解させやすさと考えられる。早い話、温度が高い程、コーヒーの成分に刺激を与え溶解を促進させる。しかし、カップの結果からは、すべての成分が高温になるほど溶解しやすくなったとも言えない。粉一粒を注視したとき、それぞれの成分が平均して分布していない事や高温帯での運動形態とそれ以下の温度帯と違いがあって、分子が特定の成分まで届かないとも考えられる。
 同程度の高音域(高周波)と低音域(低周波)を思い浮かべてみよう、音源の近くで聞くと高音域の方が大きく聞こえる。高音域が聞こえなくなるまで、音源から遠ざかってみよう。それでも低音域は聞き取れる事だろう。ある域または線を境に逆転現象が起こるメカニズムは水の中に入射した光でも同様にある。浅い水深では赤色がよく目立ち、あまり青色は目立たない。20mを超えると赤色は黒色化が起るが、青色はしっかりと認識できる。これは赤色光が20m以深まで届かない為である。多くの人は3点が直線で結ばれる変化をその先も同延長線上にある。と思いこんでしまう。しかし、実際の場合、臨界域の内外では大きな隔たりがある事を忘れてはならない。それはH2Oの分子間力と表面張力の違いでも言える事だ。
 また、すべての分子が全く同じレベル(スピード)で動いているわけではない。速く動く分子もあれば遅いモノもある。その平均値が水温となって表される。ところが、この動きはエネルギーの加え方や放出の仕方によって違うから更にややこしくなる。ケトル内の水温度計が表示した値の一つの塊(水)であっても、ケトルから出てきた水分子の持つエネルギーはそれぞれ違いがあって、成分溶解の範囲に違いが出来ている。と言う事である。
言い換えれば、最も美味しく入れる事の出来る水温は○○℃とポイントで示す事は全く無意味な表現方法と言える。
 抽出時間にしても、目安として扱う分には非常に有効と言えるが、流れの方向性が違えば時間当たりの移動距離やスピードが大幅に違ってきてしまう。
なので、現在においてよく言われている抽出条件を幾ら揃えようとも、Bestな抽出を行う事は誰一人叶わない。
それらの抽出条件を揃えるより先に、実際の流程を把握し、想定との異なりを修正する事が先決である。

★付け足しとなるが、多くのモノが凍ると体積が最も小さくなる。しかし、水は4℃の時に最も体積を小さくなる。凍ると逆に体積が増える水素結合と呼ばれる変わった形態を取る。冷凍技術を困難にさせていたのもこのメカニズムを持ち合わせていたからだ。ゆっくり温度を下げると、それぞれ食材の細胞壁が凍って体積を小さくのに対して、中の水分が膨張して細胞壁を壊してしまう。これでは品質を保てなかったり、解凍時に中の水分が外に漏れてきたりした。
現在の冷凍技術は急冷して、細胞壁が壊れないようにしている。