
コーヒー豆の組織がすべて単一で球体であったならば、焙煎はもっと簡単であったはずである。この様なモノは加熱していったときの温度分布が、次のようになっていると考えられる。熱の当たった部分(表面)が一番高くなる。直接加熱されなかった部分(中心)の温度は一番低い。熱は高い方から低い方に移動するので、加熱時の伝導率が極端に変化しない限り外側から中心に向かってきれいなグラデーションを描く筈である。しかし、実際のコーヒー豆は、歪な形状=イレギュラーな転がり方・中心までの距離が不均一。色々な成分が混ざっている=伝導率が温度によって急激に変化=温度上昇が不安定。焙煎時に形状が変化する=気流接触面が変化・膨張時の温度拡散。etc、ちょっと考えただけでコーヒー豆は焙煎を難しくさせているファクターが盛りだくさんである。また、温度上昇を均一に出来たとしても、好ましい化学変化をさせることが出来なければ、見た目の商品価値は高くなるかもしれないが、テイストしての価値を全く失う。
(豆にもよるが)どちらかと言えば、速く焼き上げる方が香味共に優れる事が多い。しかし、一歩間違うとハードカップ・コゲ・生焼けのいずれかの状態に陥る確立が非常に高くなる。この現象は均一な熱化学変化を起こせなかったことに起因していると考えられる。
F-1など自動車レースでのカーブ進入中に、ステアリングを小刻みに切りながら曲がっている。一定の切り角を保ったままでは、遠心力(外側に飛び出そうとする力)によって、タイヤはねじられてグリップの限界が早く起こる。この歪みをステアリングを戻すことで逃がしてやり、タイヤのねじれを取ってグリップの限界を少しでも延ばせるようにしている。勿論、戻したままだと曲がりきれないので、すぐに切り戻す。この繰り返しをすることでより早く曲がることが出来るのである。この理論を焙煎の加熱(ガス圧設定)に応用すれば、より短時間で安全な(平均的な)熱量を与えることが出来る。高熱量で加熱し、熱の歪みが生じたとき、一番温度の高い部分の温度を維持したまま低い部分に移動する分の熱量を加えてやれば、温度が下がらず歪みを解消させることが出来るのではないだろうか。勿論、化学変化の方向を変えないような短時間で済ませる(切り戻し量・時間)。言うまでもないが、焙煎機が直火の場合と反熱風のそれとは大きく異なる。室温によっても・投入の豆の温度/量・焙煎進行度合い・豆の質など諸処の条件の違いによって、移動する分の熱量は異なり、設定を合わせなければならない。但し、フィーリング(テイスティングによる化学変化の方向)を掴めていない人がやれば全く設定することが出来ない。レースだったら、即コースアウト・クラッシュだ!しかし、焙煎のやっかいなところは失敗したことが掴みづらいことだ。それは、前提で記述した方向性が掴めていない人がやっているからだ。