今日はいま一番注目しているコンビの演奏会。ザルツブルク音楽祭で衝撃を受けてもう2年か…。日本で聴くのはデュトワとの前回来日以来3年ぶり。

☆アンドリス・ネルソンス/ボストン交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール
・チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35(Vn.ギル・シャハム)
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番よりgavotte(アンコール)
・マーラー:交響曲第1番 ニ長調《巨人》
・ベートーヴェン:《エグモント》序曲(アンコール)

チャイコフスキーのソリストは初めて聴くギル・シャハム。時にはオケの方を向きながら楽しそうに弾く姿を見てると、こちらまでなんだか楽しくなってきます。客席もノリノリな人が多かったです。
席のせいか、ややオケとのバランスが気になる箇所もありましたが、熟練の渋い音色と流石の技巧を聴かせてくれました。アンコールのバッハではこの人の音色の良さがチャイコフスキー以上に伝わってきました。

後半のマーラーは、もう少し劇的な演奏になるかなと予想してましたが、かなりオーソドックスなアプローチ。ボストン響の音色は明るく芳醇で、とても聴きやすく、特に管楽器の柔らかさと自在さは特筆すべきものがあると思います。アンコールの《エグモント》ではその特性が存分に活かされていて、この日一番の出来栄えに感じました。
昨日は大阪公演のあとにレセプションもあったようで、恐らく当日川崎入りだったと思います。そのせいかやや疲労もあるように感じる演奏会でしたが、それでもこのクオリティを保てるのは素晴らしい。

今日の席はPブロック寄りのLAブロック1列目だったので、ネルソンスの指揮姿を堪能することができたのですが、音楽づくりだけでなく指揮姿も師匠のヤンソンスにそっくりでした。ただ、オケのドライブ能力とか弱音の歌わせ方とか、やはりまだヤンソンスの方が一日の長があるなーと感じます。ヤンソンスの実演はいつも安定していて本当に凄い。
コンセルトヘボウとバイエルン放送響を兼任した師匠同様、ネルソンスもボストン響とゲヴァントハウスという一流オケを兼任しているわけですが、忙殺されずに今後より深化した音楽を聴けることに期待します。

今日の演奏会も素晴らしかったですが、このコンビは現状ではもう少し物語性のある曲の方が向いている印象。ザルツブルクで聴いた《悲劇的》、《ドン・キホーテ》、ショス10はどれもドラマティックな演奏だったし、今回のツアーではきっと《1905年》が白眉になる気がします。
今日は午前中から演奏会へ。
初のモーツァルト・マチネです。

☆ジョナサン・ノット/東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール
(モーツァルト・マチネ 第31回)
・ハイドン:チェロ協奏曲第1番 ハ長調 HobⅦb:1(Vc.イェンス=ペーター・マインツ)
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ブーレ(アンコール)
・モーツァルト:交響曲第39番 変ホ長調 K.543

ずっと行ってみたかったこのシリーズですが、日程が合わないことが多く、ようやく行くことができました。しかも音楽監督ノットの指揮。

ハイドンのチェロ協奏曲はハイドンらしさ全開の明朗な曲で午前中にぴったり。マインツのソロも絹のように柔らかく、穏やかで心地良い演奏でした。
後半のモーツァルト39番は、モーツァルトの交響曲の中でも一、二を争うくらい好きな曲。あまり生で聴く機会は少ないのですが、今日の演奏は推進力があって、時間があっという間に経過する爽やかな演奏でした。このコンビの演奏は外れがないですね。

終演は12時過ぎという1時間ちょっとの演奏会。早起きできるし前後に予定も入れられるし、この企画はもっと回数増やしてくれればいいのになー

今日はルツェルン祝祭管を聴きに久々にサントリーホールへ。改装後初めてでしたが、内装やレイアウトが変わっていたりして、なんだか新鮮でした。
ルツェルン祝祭管はNHK-BSで放送されたものの録画やアバドとのマーラー選集をよく観ていて、録音より映像の方が馴染みのあるオケです。アバドの頃からかなりメンバーも変わってしまいましたが、世界一好きなトランペット奏者ラインホルト・フリードリヒは今でも健在で嬉しいかぎり。

☆リッカルド・シャイー/ルツェルン祝祭管弦楽団@サントリーホール
・R.シュトラウス:交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》op.30
・R.シュトラウス:交響詩《死と変容》op.24
・R.シュトラウス:交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》op.28
・R.シュトラウス:歌劇《サロメ》より7つのヴェールの踊り(アンコール)

《ツァラトゥストラ》は冒頭のトランペットのハーモニーが厳かで壮大で、一気に引き込まれました。正直R.シュトラウスの曲の中でもあまり好みではない曲なのですが、今日の演奏はとにかくオケの音が柔らかく美麗で、まるで別の曲を聴いているかのようでした。
《ティル》やアンコールの《サロメ》も含めてどの曲も素晴らしかったですが、白眉は《死と変容》。美しい音色で情感豊かに歌い上げられ、ついつい涙腺が緩んでしまいました。。カルボナーレやナバロ、ズーンと言った木管のスタープレイヤーがいながらも、どの奏者もお互いの音を聴き合って演奏している様が良くわかりました。常設オケでないのにここまで精度が高いのは驚嘆だし、逆に常設でないからこそこの精度が出せるのかな…。

この演奏会を通して一番印象的だったのは、各楽器の音がどんな組み合わせでも融け合っていたこと。上質な室内楽のように、フレーズの受け渡しに全く切れ目がなく、曲の初めから終わりまでが一つのフレーズになっているかのようで、曲自体の良さが存分に伝わってきました。

プログラムに載っていた奏者へのインタビューを見ると、やはりアバドへの郷愁というか幻影はまだ残っていて、良いところであると同時に、シャイーの気苦労も少なからずあるのではないかなと感じました。

恐らく今年屈指の注目公演と言っても過言ではないペトレンコ指揮バイエルン国立歌劇場の《タンホイザー》。バイエルン国立歌劇場を聴くのは、前回来日の6年前以来です。大変な年だったということもあって、あのときの《ローエングリン》と《ナクソス島のアリアドネ》は、自分の中で今でも特別な思い入れがあります。


チケットが高過ぎて今回は最初から諦めていましたが、ペトレンコはベルリン・フィル就任に伴いバイエルンを退任するため、このコンビでの来日は最初で最後となるのは間違いなしということもあり、直前に35歳以下の割引券も出たので、意を決して行ってみました。
 
☆キリル・ペトレンコ指揮バイエルン国立歌劇場@NHKホール
・ワーグナー:歌劇《タンホイザー》(ロメオ・カステルッチ演出)
 
〇キャスト
領主ヘルマン…ゲオルク・ツェッペンフェルト
タンホイザー…クラウス・フローリアン・フォークト
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ…マティアス・ゲルネ
ヴァルター・フォン・フォーゲルヴァイデ…ディーン・パワー
ビッテロルフ…ペーター・ロベルト
ハインリッヒ・デア・シュライバー…ウルリッヒ・レス
ラインマル・フォン・ツヴェーター…ラルフ・ルーカス
エリーザベト…アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス…エレーナ・パンクラトヴァ
羊飼い(声)…エルザ・ベノワ
羊飼い(少年)…カレ・フォークト
4人の小姓…テルツ少年合唱団
合唱…バイエルン国立歌劇場合唱団

序曲の冒頭から、オケの透明感溢れる音に驚嘆させられます。特に弱音の扱いは神経質とも取れるくらいに繊細に紡がれていて、ペトレンコの音楽性がよく伝わってきました。プログラムによると今回の版はウィーン版とのことで、序曲のあとに続くバッカナールの音楽も妖艶な雰囲気が漂い、1幕の期待が高まります。
ちなみにこの公演の宣伝にも使われていた半裸の女性たちがスクリーンに映された目や耳に向かって次々と矢を放つ演出は、序曲中に用いられていましたが、一体どのようなメッセージが込められていたのだろう。。何も考えなければ格好いいシーンではありました。
ヴェーヌスブルクはなんだか脂肪の塊なのか人間なのか区別がつかない物体が蠢く場所で、ヴェーヌスも半分溶けているような状態で視覚的にはグロテスク。桃源郷というよりは人間の欲望の汚さを表現したかったのかな。

2幕は歌合戦の場面で中央に置かれた半透明の箱の中で、正体不明の黒い物体(生命体?)が蠢く演出が印象的でした。タンホイザーの心情と連動していたのかは定かではないですが、効果的な演出に見えました。
2幕から登場のダッシュが歌うエリーザベトは、可憐さと気高さが同居していて素晴らしかった!初めて聴いた歌手でしたが、またワーグナーを聴いてみたいです。

全編通じてモノトーン基調の演出でしたが、3幕は特にその傾向が強く、ほぼ黒と白のみの演出で、タンホイザーの絶望と救済をわかりやすく表現しているように感じました。途中から出てくる棺のようなものには、フォークトとダッシュのファーストネームが記載されていて、あれはなんで役名じゃなくて歌手名なのはどんな狙いがあったんだろうか…
ゲルネの夕星の歌もフォークトのローマ語りもブラボーでしたが、フォークトはタンホイザーみたいな役よりはローエングリンのような神秘的な役柄な方が自分としては好みですね。

ペトレンコはオケを完全に掌握していて、かなり細かい表現も自在にこなしていて、よく意志疎通が取れているオケだなーという印象を受けました。なんとなく音楽性は前任のケント・ナガノと似ている感じもします。あのときの《ローエングリン》も清謐ながら情熱に溢れた演奏でした。
ただ、前回との大きな違いは合唱で、前回は来日キャンセルした団員も少なくなかったと思いますが、今回は完全に圧倒されました。音響の悪いNHKホールでも良く響くし、ソリストよりも印象に残るくらいの素晴らしい出来でした。(2幕終盤だけ若干不安定なところもありましたが、あれはソリストの誰かだったのかな…)

総じて前評判どおりの質の高い演奏で行ってよかったのですが、平日昼間の公演でこの価格設定だと、案の定空席が目立ちました。海外オペラハウスの引っ越し公演でソリストもこのレベルを揃えるとコストがかかるのはわかりますが、何か良い解決方法はないものですかね。。

昨日ブルレスケの本番が終わり、本来であればしばらく演奏会本番まで間隔が空くのですが、今年は8月9月にも本番があるので、じっくり基礎練というわけにはいかなさそうです。

 

昨日の余韻も残るまま、東響の演奏会へ。

今シーズンのプログラムでは、12月の《ドン・ジョヴァンニ》と並んで楽しみな演奏会です。

 

☆ジョナサン・ノット/東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール

(川崎定期演奏会 第61回)
・細川俊夫:《嘆き》~メゾ・ソプラノとオーケストラのための(Mezzo-Soprano.藤村実穂子)
・マーラー:交響曲第2番 ハ短調 《復活》
Soprano.天羽明恵
Mezzo-Soprano.藤村実穂子
Chorus.東響コーラス

プログラムの構成からも今日の演奏会に懸ける東響の意気込みは感じていましたが、圧巻でした。

まず前半は細川俊夫の《嘆き》。
ゲオルク・トラークルの詩を題材とし、東日本大震災の津波による犠牲者、特に子供を失った母親たちに捧げられる哀悼歌というこの作品ですが、特殊奏法により雅楽を思わせるような静謐で物悲しい響きと、藤村さんの慟哭の歌唱が胸に刺さります。特に目を引いたのは打楽器で、少ない人数で多彩な楽器・奏法を操り、奮迅の活躍でした。
細川さんの作品は他のものも聴いたことがありますが、どれも静かで不思議な美しい作品で、とても好みです。

《嘆き》からの《復活》。
もう何というか筆舌に尽くしがたい、壮絶な演奏でした。。
オケのレベルの高さはもちろんですが、この演奏会への思いが舞台からひしひしと伝わってきて、最初から最後まで引き込まれっぱなしでした。特に終楽章のトロンボーンソロは、今まで聴いたトロンボーンの音色で一番美しく、思わず目が潤んでしまいました。まさに天上の音楽。

今日の演奏会がトランペットの大隅さんとトロンボーンの荻野さんの最後の演奏会とのことで、終演後は舞台上でお二人が団員から握手責めにあっていて、見てて暖かい気持ちになりました。ノットがカーテンコール中に直接お二人に握手しに行ったのもよかったなぁ。