発売がアナウンスされてからずっと楽しみにしていたものの、何度か発売延期になってしまっていたブルーレイを、昨日タワーレコードで買ってきました。RCOが2009年から2011年に渡って取り組んだマーラー・ツィクルスを収録したものです。

$Harmoniemesse

2010年が生誕150周年、2011年が没後100周年にあたるというマーラー・イヤーが続いた中でのツィクルスということもあり、指揮者も錚々たる顔ぶれです。首席指揮者のマリス・ヤンソンスが2番、3番、8番を振り、その他の曲をダニエル・ハーディング、イヴァン・フィッシャー、ダニエレ・ガッティ、ロリン・マゼール、ピエール・ブーレーズ、ベルナルト・ハイティンク、ファビオ・ルイジ、エリアフ・インバルが振り分けます。

早速1番と2番を視聴しましたが、画質・音質ともに綺麗なのはもちろん、カメラワークのセンスの良さが光ります。各楽器が目立つ部分以外にも、素人の自分では普段気付きにくい箇所でも奏者をクローズアップしてくれたりするおかげで新しい発見が多々あり勉強になります。

ハーディングの《巨人》は見通しがよく勢いのある演奏でなかなか。若き俊英としてウィーン・フィル定期まで駆け上がったあとは一時期スランプ説も囁かれていましたが、今後どうなっていくのでしょう。来月彼の指揮で新日フィルのショス10を聴くのが今から楽しみです。ヤンソンスの《復活》は既発のCDに付いていたボーナスDVDと同じものですね。マゼールの《悲劇的》、ブーレーズの《夜の歌》、ハイティンクの9番が期待大。

このブルーレイのおかげで当分休日の愉しみには困らなさそうです。
秋の陽光の中、今日は4年ぶりに紀尾井ホールへ。
上智大学でちょうど学園祭をやっていたようで、四ツ谷駅周辺は若者でごった返していました…。


☆クリスティアン・エーヴァルト/紀尾井シンフォニエッタ東京@紀尾井ホール
(第87回定期演奏会)
・ハイドン:交響曲第101番《時計》
・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(Pf.ペーター・レーゼル)
~アンコール~
・ブラームス:間奏曲op.107-1

前半の《時計》は室内オケにぴったりの音楽で、どのセクションの音も溶け合っていて個々の奏者の高いアンサンブル能力が覗えました。ピリオドアプローチではなく、豊饒な響きを活かしたモダンな演奏でしたが、ハイドン特有の軽やかさを失うことなく愉悦を感じさせてくれる演奏でしたね。特にオーボエの広田氏とトランペットの岡崎氏が良かった。

後半は名匠、ペーター・レーゼルを迎えてのブラームスの第二協奏曲。大好きな曲ですが恥ずかしながら実演を聴くのは今回が初めてです。
オケはやはりブラームスらしい分厚い響きで、中低音陣がしっかりと内声から支え、レーゼルのピアノもオケと良い具合に拮抗する重厚な音色とアプローチを聴かせてくれました。3楽章のチェロソロもブラボー。管楽器陣もところどころ浮いて出てくるソロやコラールを美しく聴かせてくれ、ピアノ付き交響曲と揶揄されることもあるこの協奏曲で存在感がありました。オケとピアノの丁々発止のやり取りが見事な快演。
アンコールの間奏曲も叙情的に歌い上げ、最後まで安らかな暖かい響きに包まれた演奏会でした。

久しぶりのKSTでしたが相変わらず腕利き揃いの布陣を揃えていて、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。そして紀尾井ホールも相変わらず素敵なホールで、なんだかリッチな土曜の昼を過ごすことができました。
気が付けばもう11月。
今年もあっという間に終わりが近づいてきましたね。


☆マウリツィオ・ポリーニ -ポリーニ・パースペクティヴ2012-(ベートーヴェン/シュトックハウゼン)@サントリーホール
・シュトックハウゼン:ピアノ曲Ⅶ
・シュトックハウゼン:ピアノ曲Ⅸ
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第24番《テレーゼ》
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第25番
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第26番《告別》
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番
~アンコール~
・ベートーヴェン:「6つのバガテル」から変ホ長調
・ベートーヴェン:「6つのバガテル」からロ短調


マウリツィオ・ポリーニが4日間に渡って挑む現代作曲家とベートーヴェンのプログラム。こういうツィクルスを日本でやってくれるというのは本当にありがたいです。ちなみに全日NHKの収録が入る予定になっているそうです。

幕開けはシュトックハウゼンのピアノ曲Ⅶ&Ⅸ。結論から言いますと、シュトックハウゼンのこの2曲が一番素晴らしかった。
ピアノ曲Ⅶは少ない数の音が不規則に散りばめられていて、その一つ一つの音の不気味な響きが空間に漂い続け、無調の音楽がひたすら流れていくのですが、不思議と不快感はなく、むしろ沈黙の中に現れては消える音の結晶や響きの移ろいが美しく感じられます。ポリーニのピアノは無骨で力強いのですが、強烈な打鍵でも響きは透き通っていて、シュトックハウゼンの難解な曲でも歌心を忘れていないというか、聴き手にわかりやすく語りかけてくれているかのような演奏でした。ピアノ曲Ⅸもひたすら不協和音が続いていくのですが、ペダリングや打鍵の妙で同じ和音の連続でも微妙に響きを変えていったりしていて、ピアノという楽器の奥深さや面白さが改めてわかりました。

そしてベートーヴェンのソナタ。どれもテンポは早く、特に音が密集する箇所は早過ぎるのではないかと思うくらいのテンポで一直線に進んで行きます。息もつかせぬ様はまるで一筆書きの書道のよう。瑕がない演奏かと言われればそうではなかったわけですが、それでもポリーニの描くベートーヴェン像というものははっきりと見えてきましたし、なにより現代作曲家とベートーヴェンのソナタを組み合わせて聴かせるということで考えさせられる部分が多々ありました。

ポリーニの演奏スタイルはもう限界に近いのではないかとも思いますが、きっとそこで妥協することはなく、たとえ演奏に瑕があろうとも自分の解釈に偽りなく、素直に音にしていくことがポリーニにとって第一なんだろうなと感じさせるベートーヴェンでした。
今日は生憎の雨模様でしたが、初めて神奈川県民ホールへ行ってきました。
みなとみらい線沿線の街並みはお洒落で落ち着いた雰囲気で大好きです。


☆ペーター・シュナイダー/ウィーン国立歌劇場@神奈川県民ホール
・モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》(ジャン=ピエール・ポネル演出)

〇キャスト
アルマヴィーヴァ伯爵…カルロス・アルバレス
伯爵夫人…バルバラ・フリットリ
スザンナ…アニタ・ハルティッヒ
フィガロ…アーウィン・シュロット
ケルビーノ…マルガリータ・グリシュコヴァ
マルチェリーナ…ドンナ・エレン
バジリオ…ミヒャエル・ロイダー
ドン・クルツィオ…ペーター・イェロシッツ
バルトロ…イル・ホン
アントニオ…ハンス・ペーター・カンメラー
バルバリーナ…ヴァレンティーナ・ナフォルニータ
村娘…カリン・ヴィーザー
合唱…ウィーン国立歌劇場合唱団


神奈川県民ホールは内装はNHKホールに似ていますが、舞台の観やすさや音響はこちらの方が遥かに良かったです。来日オペラは首都圏であれば全部東京文化会館か神奈川県民ホールでいいと思います。

ポネルの演出は中世ヨーロッパを彷彿とさせる、ウィーンでも定番となっている不朽の名演出。まさに正統派といった綺麗で豪華な演出でしたが、要所要所に細かい所作が散りばめられていて最後まで飽きることなく楽しめました。たしかに古めかしい演出かもしれないですが、2幕冒頭の幻想的な演出などはなかなか真似できないでしょう。今まで観たオペラの中で一、二を争うくらい好きな舞台です。このプロダクションも初演は1972年のザルツブルク音楽祭ということで、《サロメ》に続いて古き佳きウィーンの舞台が楽しめたのは貴重な体験になりました。

演奏の方は実力派の歌手が揃っていて、アリアも重唱もレチタティーヴォも妙技を存分に味わえました。一人の傑出した歌手がいればなんとかなってしまうオペラもありますが、このオペラに関してはそうはいかないと思います。フリットリとアルバレスという安定の宮廷歌手コンビに加え、シュロット、ハルティッヒ、グリシュコヴァと若く魅力的な歌手が軽妙洒脱に歌い、主役が何人もいるかのような高い水準。衣装含めて歌手の容姿もみな美しく、視覚的にも素晴らしかったです。
シュナイダーとウィーン国立歌劇場管は決して歌手の邪魔をすることなく歌いやすいように寄りそうような演奏で、しなやかな美音を堪能させてくれました。ウィーンのモーツァルトはなんでこんなに柔らかくて美しいんだろうか…。

素晴らしい舞台の中でも一番印象に残ったのは、フリットリ演じる伯爵夫人の2幕冒頭のカヴァティーナと3幕途中のアリア。気高く慈悲深い伯爵夫人のキャラクターがよく表現されていて、フリットリの繊細で深い歌唱には脱帽です。シュロットとハルティッヒの夫婦役は今回の来日公演では今日が最初で最後のコンビでしたが、息もぴったりで本物の夫婦のようでしたね(シュロットの本当の奥様のアンナ・ネトレプコは今後来日はあるのかな…)。

来日拒否の演奏家も少なくない中でこれだけの水準の歌手を集めるのは簡単なことではなかったと思いますし、招聘元のNBSとウィーン国立歌劇場のその尽力には心より感謝です。


今年のオペラはこれでおしまい。来年はハーディング&ドゥダメルが率いるミラノ・スカラ座が聴き逃せませんね。




毎年いつも思うのですが、秋の時間って短いです。
夏のうだるような暑さが過ぎ去ってから冬の凍てつくような寒さが訪れるまでの間にある、静かで落ち着いた時間がもう少し長いといいのに。


今日は世界で2番目に好きなオーケストラの演奏会へ行ってきました。


☆クリスティアン・ティーレマン/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団@サントリーホール
・ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」
・ブルックナー:交響曲第7番


SKDを聴くのは3年前にファビオ・ルイジと来日した時の《英雄の生涯》以来。陳腐な表現ですが、ここの音色は録音で聴いてもわかるくらい独特の、所謂いぶし銀とか上質な骨董品のような味わい深い音色を持っています。
一方、ティーレマンを生で聴くのは初めて。ワーグナーとブルックナーという十八番のプログラムを披露してくれました。


まず前半の《トリスタン》。オーケストラの演奏会の1曲目としてではなく、まるでこれからオペラ全曲が始まるかのような重厚なオーラが前奏曲冒頭から感じられます。ティーレマンは完全にこの曲を手中に収めていて、オーケストラを自由自在に操り、自分の考えを100%表現しきっていたように聴こえました。弱音はテンポ落として繊細で美しく紡がれ、無限旋律の果てにどんどんと高揚していく様はトリスタンとイゾルデの心情が劇的に表現されていて、ティーレマン節全開。最後のコラール直前のトランペットをあそこまで引っ張って浮き立たせるのはティーレマンならではでしょう。奏者も歌心を忘れず、このワーグナーの悲劇的ながらも儚く美しい音楽に向き合っていて、世界最古のシュターツカペレの地力を思い知らされました。素晴らしい演奏でしたが、中でも「愛の死」冒頭のバスクラの絶妙な入りにはティーレマンも思わずにっこり微笑んでいましたね。ぜひ今度は歌劇場として来日して全曲を聴かせて欲しいです。

メインはブルックナーの交響曲第7番。先月現地で行われたSKD首席指揮者就任記念演奏会でも披露して絶賛を博したというこの曲、噂に違わぬ超名演でした。
第1楽章はゆったりとしたテンポで進められ、弦楽器が雄弁に語り、管楽器がその上に柔らかく乗り、荘厳な音楽が生み出されていきます。残響が存分に保たれ、スケールの大きな音楽。中でもフルートの首席が抜群に上手く、自然とオケの中心になっていました。
第2楽章はブルックナーの交響曲の中でも屈指の美しさを誇る緩徐楽章。死期が迫るワーグナーへの想いが存分に込められた葬送、哀悼とも受け取れる音楽。言葉にならないくらい重厚で美しく、深淵な祈りのようなものが感じ取れました。ただただ美しかった…。
第3楽章のスケルツォは一転軽快なテンポで進められ、オケもギアを一段上げた印象。しかし中間部では前半の楽章と同じように丁寧にゆったりと歌わせ、良い具合にメリハリがつけられていました。
そして終楽章。他の交響曲の終楽章と比べて小ぶりではありますが、心に響く楽章です。フレージングは決してぶつ切りにならず、息の長い音楽が続いていき、この時間が終わって欲しくないと心から思いました。コーダに向かって段々と盛り上がっていき、最後まで美音に包まれながら感動的に結ばれました。曲が終わりティーレマンが指揮棒を降ろすまでの静寂も、数人拍手を始めてしまいましたが、それ以降の追随を許さなかったサントリーホールの満員のお客さんも素晴らしかったです。今日は観客の集中力もすごかった。

演奏終了後はスタンディングオベーションでブラボーの嵐。一般参賀も2回。ワーグナーもブルックナーも対抗配置で少々驚きましたが、演奏効果は抜群でしたね。そういえばコントラバスの譜面台の上に《タンホイザー》の楽譜が最初から置かれてたのでアンコールでやるのかと期待してましたが、残念ながらアンコールはなしでした…。

世界でこのコンビ以上のワーグナーやブルックナーを聴かせてくれるコンビは果たして現在いるのでしょうか。今日はそう思わせてくれるくらいの極上の演奏会でした。
ドレスデン国立歌劇場は運営面のごたごたが多いようで、最近ハイティンク、ルイジと短期間で指揮者が変わってしまっているので、ティーレマンとのコンビはぜひとも末永く続けていってもらいたいですね。