おはなし果実のきもち⑤ | 張り子人形のやま

張り子人形のやま

張り子人形と、紙を主な素材とした立体抽象作品を制作しています。

5,歌果実


 どんどん丘が近づいて、もっとよく「歌果実」達が見えるようになってきました。





洋なしの中には、お母さんの持っているオパールのようにキラキラした目を持つ子が外をじっとみつめています。

カリンの中には、やや大人っぽい、髪の長いおねえさんがいるようです。

バナナの中には、バナナのように細長い子がほほえみ、

柿のなかには、小さいけれども意思の強そうな子がシャンと立っていました。

そして…


「あれ、リンゴの中にはだれもいない…あっ!」


その時、女の子は気付きました。

空に浮かぶリンゴの斑点もように見覚えがあることを。


「おばあちゃんの、リンゴ!!」


前にいるピンクの子が言いました

「あたらしい歌果実の子だ」

後ろのかぶりものの子も言いました

「あたらしい歌を運ぶんだ」


ソラマメちゃんも重ねます

「アタラシイウタ、アタラシイメグミ」


「でも、外側しか…あれ?」


よく目をこらすと、リンゴのすみっこに、小さな小さな何かがモゾモゾと動いていますが、中が暗くてよく見えません。


「あの子がことしの歌をはじめるんだよ」

「そして女王様のめぐみがウエへといき」


「「みんながたのしくうれしくしあわせになりますように!」」


そして皆は、丘にたどりつきました。

丘は大きく、上の方は草が生えていないようでした。

風か少し強く吹きました。空に浮かぶくだもの達が、少し揺れました。


3人はソラマメちゃんから降りました。

「ソラマメちゃん、ありがとう」

女の子がそう言ってソラマメちゃんのあごの下を掻くと、ソラマメちゃんは気持ちよさそうに目を細め、

「イイッテコトヨ」

と答えてくれました。 


ピンクとかぶりものの2人は女の子の両側にやはり立ちました。

そういえば、と女の子は思い立ち聞いてみました

「2人とも、お名前はなに?わたしは◯◯だよ」


「わたしたちはどこにでもいてどこにもいないよ」

「わたしたちはナマエはあるけどナマエはないよ」


「「でもおともだちだよ、昔からも今もこれからも」」


「……?」


「おかしいな、歌がはじまらない」

「歌がないと女王様が来られない」


「え?」


見ると、フワフワと浮かぶ洋なし、カリン、バナナ、柿の中の子達が皆身を乗りだし、不安げにリンゴの方を見ています。


リンゴの中には、どうやら誰かはいるみたいですが、

すみっこにいて出てきません。


「あ…ちょっとだけ見える…」


緑の地に白い花模様の服がほんの少しだけ見えまし

た。




「はずかしがってるよ」

「はずかしがってるね」


その時、リンゴの中から、お目々のとろんとしたちいさな子がほんの一瞬顔をのぞかせ下を見ると、ぶるるっと震えて、また奥に引っ込んでしまいました。


「こまったね」

「こまったな」


2人も戸惑っているようでした。


辺りには、いつの間にか、2人のような子達がたくさん集まってきていました。

皆して空を不思議そうに見上げています。


「あの子が歌わないといけないの?」


「新しい子が新しいはじまりをつげる」

「新しいめぐみの合図で女王様が来る」


「「女王様が来ないと、めぐみがウエにつたわらない」」


「でも…」


女の子はリンゴを見ました。風のせいかもしれませんが、かすかに震えているようでした。

大好きなおばあちゃんのリンゴが!


その時、女の子の頭の中に、突然声が響きました。

やさしい声でした。


「こころのままにいきなさい」

「おねがいね」

「あなたならできる」


女の子は丘に向かって走り出しました。

驚いた2人も、慌ててながらも付いてきてくれました。


女の子は丘の上まで登りました。そして、

はあはあと息をととのえ、すーっと息を吸うと、

空に向かって大きな声で叫びました。

「リンゴちゃん!わたしがついてるよ!一緒に歌おう!」


そして、女の子は歌いはじめました。

「らーららーらー!」

「ぼーくらーのまーなびーや」

「◯☓しょーうがーっこーう」

「あーいしーてるーえーいえーんにー!」

流行りの歌や学校の校歌、ありとあらゆる知っている歌を次から次へと、どんどん歌っていきました。

「大丈夫、リンゴちゃんなら歌えるよ!おばあちゃんのリンゴなんだから!ラーラー♪」


それをみた2人も、後ろで手をパチパチと叩き、

「一緒に歌おう♪一緒に歌おう♪」

と調子を合わせてくれました。


すると、周りにいた子達も、皆してそれぞれ歌いはじめました。

手を叩き、足を踏み鳴らし、笑いながら。


すると、リンゴの中から、小さな子がおずおずと顔を出しました。

そして、女の子の方をじっとみつめました。


女の子は、両手をぶんぶんふって、にっこり笑ってみせ、

「大丈夫だよ!」

と言いました。


リンゴの子は、それを聞くとちょっぴりうなずき、

体をほんの少し外に乗り出すと、


「ラーラー♪ラーラー♪」


と、か細く歌いはじめました。






その瞬間、皆歌うのを止めて、リンゴの子の方を見ました。


リンゴの子は一瞬、ビクっとしましたが、女の子の方を見やり、女の子がうなずいたのを確認すると、ふたたび歌いはじめました。


「ラーラー♪ラーラー♪」


それを聞いた他の歌果実たちも、安心したように、リンゴの子に合わせて歌いはじめました。


「ラーラー♪ラーララー♪」


「しゅうかくさいが はじまるよ♪」

「たのしい うれしい しゅうかくさい♪」