「黒ずくめのおじさん」
通常の出勤時間の朝、歩いて駅まで行くと、駅前ロータリーの角あたりに市内の工場勤めの人を送迎するバスを待つ列が出来ている。
毎朝その列の先頭で待つおじさんがいた。
黒いシャツ、黒い上着、黒いズボン、黒い靴、黒いマスク、黒いキャップ。背負っているリュックも黒。
見事に黒ずくめの彼は、その後ろに並ぶさまざまな年齢の人達のそのほとんどが下を向いてスマホを操作しているなか、しっかり前を見つめて仁王立ちしている。
ボクが電車通勤を始めて1年半くらい経った頃、それまで必ず先頭にいた彼の並ぶ順番が少し後退するようになった。
それでもだいたい5番手以内にいた彼が、「朝顔1」の白髪のおじさんとほぼ同じ時期にぱったり見かけなくなった。
ここでバスを待つということは、みんなおそらく他の町から電車でここの駅まで来る人達なはず、バスが出る時刻から推察してそんなに遠くから来る人はいないと思われるが、辞めたのであれば、さすがにもう会うことはないだろう。