「白髪のおじさん」
朝、JRの駅まで歩いて来て、改札を入り、北側の階段を降りて、中央のエレベーターを越えたあたりで電車に乗ると、ちょうど乗り換え駅のエレベーター前に停車する。
いつも同じ時刻の電車を待っていると、ひとつ左隣の扉を待つあたりに必ずいるおじさん。
五分刈りというんだろうか、前髪が乾いていれば上を向く長さで全体に白髪。
小柄だがガッシリした体格。
四つ折りにした新聞を見ながら電車を待つ姿は、一昔前ならよく見た風景だが、今の通勤電車では彼以外全く見たことがない。
同じ上り電車に乗って３駅、同じ駅で降りてエレベーターに乗る。
ボクが乗る扉で降りれば必ずエレベーター前に停車するのに、なぜか絶対ひとつ隣の扉から乗り降りする。
JRの改札を出て、ボクと同じように乗り換えの私鉄の改札へ向かう。
不思議なことに、毎朝同じ電車に乗るのに彼は私鉄の券売機に向かう。
エスカレーターを降りて、到着したばかりの当駅止まり折返しの電車に乗るが、ここから彼はボクとは違う車輌に乗るので、どこで降りるのかは知らない。
電車通勤を始めてほぼ２年となる春分の日直前の月曜日、ぱったり彼の姿を見なくなった。
そろそろ３週間になる。
退職？病気？
知る由もない。
同じ駅から乗るからには、ほぼ間違いなく同じ市内の住人のはず。
もしバッタリ会うことがあれば、声でもかけてみようか。