昔話の考古学: 山姥と縄文の女神 (中公新書 1068)
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吉田敦彦氏の『昔話の考古学: 山姥と縄文の女神』には、あらゆる山姥が登場する。
「三枚の護符」「糠福と粟福」「食わず女房」「牛方山姥」「天道さん金の鎖」「姥皮」、「うり姫」や「炭焼き長者」の類話なども豊富に紹介されている。
そして、第二章「苦しんでたくさんの子を生む山姥と山の神」で、ようやく「山の神と乙姫さん」の類話に出会ったのだ。
面白いのは、出産の場面だ。
徳島県三好郡の昔話は、「芋こぎ桶に入れて、こね板でこねまくり、かごでふりゆすいで洗いあげ(P.51)」、四百四病の山の神となる。
高知県香美郡の昔話は、九万九千の子を「芋こり籠(芋を掘って入れる籠)に何人もの子を入れて、水の中で揺すり上げ(P.52)」、この世に人間が誕生した。
ちなみに、私が覚えた「山の神と乙姫さん」では、「たくさんの子どもを目なしの籠(かご)に入れ、ごじゃごじゃとかきまわし、振りゆすいですすぎあげ」るが、「山の神とおこぜ」では「川原へ行って、芋こぎ桶に入れ、こね板でこねまくり、籠で振りゆすいて洗い上げ」る。
どちらも産まれたばかりの赤子の扱いではない。
「芋こぎ桶」「芋こり籠」という言葉が出てくるのが不思議。まるで土から掘り出す芋のようだ。
う〜ん、乙姫さんが産んだ神々が、芋のように土中から掘り起こしたものであれば、それは更に古い時代が影響しているのだろうか。
『昔話の考古学』は、第六章「古栽培民のハイヌウェレ型神話と殺害の儀礼」へと続く。
ココヤシの花から生まれたハイヌウェレという少女は、様々な宝物を大便として排出して人々に分け与えるが、やがてその力に嫉妬した村人に殺害される。父親がハイヌウェレの死体を掘り出し、切り刻んであちこちに埋めると、様々な種類の芋が生まれる。
ハイヌウェレ型神話(ハイヌウェレがたしんわ、ハイヌヴェレとも[1])とは、世界各地に見られる食物起源神話の型式の一つで、殺された神の死体から作物が生まれたとするものである。
豊穣の女神は、母なる大地、つまり土に帰属する。
その死と引き換えに、人間に必要な食べ物を与えて去ってゆく。永遠の妣だ。
日本神話もまた、オオゲツヒメや保食神(うけもちのかみ)などが、身体から食べ物や蚕を排出する。命と引きかえに。
その殺された女神の頭から蚕が、目から稲が、耳から粟が、鼻から小豆が、陰部から麦が、尻から大豆が生じました。
蚕もまた古く、五穀の起源と同等に神話に登場する。
庄屋の娘のおしらは継母に庭に生き埋めにされ、その桑の木に蚕がつく。
遠野物語では、殺害された馬と娘は天にのぼってゆくが、これも娘の死である。
そして、人は蚕を得る。
女神の死と土と糧。
『昔話の考古学』は、後半にむかい更に時代をさかのぼり、縄文宗教へと続く。