グリム童話『三枚の鳥の羽』の翻訳について、三冊を比較してわかること。 | 働くママ(SOHO編)

グリム童話『三枚の鳥の羽』の翻訳について、三冊を比較してわかること。

前回の記事「グリム童話『三枚の鳥の羽』と『鉄のストーブ』に登場する、不思議なヒキガエルの詩をご存知?」に続きます。

 

グリム童話『三枚の鳥の羽』の翻訳について、三冊を比較してわかったことがあります。

それは、言葉に忠実でないと物語の実を取りこぼすし、翻訳に忠実すぎると物語の真を見失うということ。

 

 

末の王子が揚げ戸の下に続く階段を降りて異界への扉をたたくと、その向こう側から声がするのですが…

 

"Jungfer grün und klein, 
Hutzelbein, 
Hutzelbeins Hündchen, 
Hutzel hin und her, 
laß geschwind sehen, wer draußen wär."

 

ちいさいみどりのむすめや

しわくちゃばあやや

しわくちゃばあやのちびいぬや

しわくちゃ あっちいき こっちいき

だれがおじゃるかみてきやれ

 

 

 

 

野村ひろし氏の翻訳は…

 

緑の小さいねえさんや

はね足や はね足の子犬や

ぴょんぴょんはねて

だれが来たのか見ておいで

 

 

 

小澤俊夫氏の翻訳では…

 

小さな緑のむすめさん

しわくちゃ足 しわくちゃ足の子犬さん

しわくちゃ足ですばやく行って

だれがいるのか見てきておくれ

 

 

 

最初の翻訳は、太ったヒキガエルと小さなヒキガエル達の主従関係が明瞭です。

しかし、後の2つは「緑の小さいねえさんや」「小さな緑のむすめさん」とあり、どこか他人行儀です。

 

この後、末の王子が「いちばん美しい花嫁」をお願いした時に、太ったヒキガエルは「私の小さいヒキガエルを一匹いれてごらんなさい」と王子に言うのです。つまり、小さなヒキガエルたちは、彼女が守る娘のような者たちなのでしょう。

そこで、「だれがおじゃるかみてきやれ」という命令口調が活きてきます。

 

『三枚の鳥の羽』の運命を導く太ったヒキガエルが最も力のある高貴な女神として際立つほど、このおはなしの魅力は増してゆきます。

 

 

そのほか、違和感を覚える表現が多々ありました。

 

王が王子たちに与える命令は、「もう一度問題をだしてください」よりは「新しいべつの取り決め」のほうがよいですね。

「いちばんきれいな指輪」は良いですが、「いちばん美しい金の指輪」という命令は既にネタバレとなってしまいます。

なかをくりぬいたにんじんの中にカエルを「いれてごらんなさい」は良いですが、「黄色い乗りもののなかへ入れました」や「なかをくりぬいたにんじんに乗せました」もネタバレです。聞き手は、にんじんが馬車になるなどとは想像もしていないのですから。

百姓娘たちが「両手両足をおってしまいました」というのは誤訳です。原文に忠実ではない解釈です。

 

小澤先生の昔話大学を受講中ですが、昔話の語法に忠実であろうとすると2回の詩の登場が3つになり、「いちばん美しい指輪」が「いちばん美しい金の指輪」となってしまうのかもしれませんね。