目が殺気だっていた。

さっきまで、わたしの背中でもさもさ、くっついてきていたのが、いきなりげんこつをかましてきた。

わたしの、いたいと言う言葉に、反応して、また、二発。

ただ事じゃなく、真剣に振り返った。

そこには、さっきまで、甘えていた猫はいなかった。
家族を養うために、必死に身を削るようなたたずまいの、タイ人ボクサーのごとく、二つの握りこぶしをもった、鬼がたっていた。

わたしは、いえに鬼をいれたつもりは、ない。でも、たしかに、わたしの目の前には、鬼がたっている。

日本語がつうじるか、不安におもったが、話しかけてみる。

[どうして、たたくのですか?]

小さい子供にもわかる言葉でシンプルにたずねた。

(クサイカラジャ)

それだけ言い残して、鬼は、里山にかえっていった。

クサイカラジャ。。。

あたまのなかで、よく考えてみた。
そういえば、背中なんぞあらったことなかった。
きっと、鬼さんは、わたしの服をめくり、ダイレクトに背中に顔を近づけたに違いない。

ソレハキットクサイダロウ

わたしまで、鬼が移ったようだ。

しばらく、ぼーっと、しているうちに、われにもどってきた。

目の前には、カバンと、帽子。

見慣れたものだ。

(まちがいない。さっきまで、ここにいた鬼は鬼じゃない彼女だったんだ。)

こん棒もなければ、虎柄のデカパンもない。

あまりの恐怖に、いっときの、夢に近い残像を見ていたのだろう。

静まり返る自分の部屋に、背中さえあらっていれば、今、一人でいることもなかったであろうと後悔した。

泊まって行くとおもい、大量に用意された食事を前に、今日の夜は長くなりそうだと、ひとり、さみしいディナータイムが、はじまった。