背中のやや下の腰に近い位置に 『鬼』の文字が書き込まれている。


きたろうはそれを自慢するかのように、全裸の私たちに見せてきた。

時間が止まる。なぜ、裸で、こいつの、『鬼』を見なければならないのか?


ただただ、その一文字を見せられた。


今まで、話していた、きたろうの話が一つにつながった。

伏線につぐ伏線。というか、永遠に背中の話をしていただけなのだが、

きたろうは、私たちに、自分の背中を見てほしくて、背中の話を永遠にしていたのだろう。


自分が、かっこいいとおもっている鬼太郎を髪を伸ばし、まねているのを、誇りに思っているのか、

タトゥーをを入れたのだろう。


今は、若くくて髪の毛もあふれんばかりに、わさわさしているが、将来、面影がないくらいに

禿げ上がったらどうするつもりだろうか?


そもそも、なぜ鬼太郎という3文字をいれないで、鬼だけで終わっているのだろうか?


疑問は残る。


あとあとわかったことだが、痛さから、鬼太郎という3文字を一気にいれることができずに、『鬼』だけで

根をあげたそうだ。残された、『太郎』を入れる日は、いまだに未定らしい。


[あーだめですよ!それは禁止です。]


脱衣所で、整理をしていた、店員から、注意が入る。


いまの銭湯は、どこいってもですが、タトゥーしている人は、入場禁止なんですよ。

入口にもかいてありましたが、申し訳ありません。出て行ってください。


言葉は鬼の様に厳しいが、しゃべっている事は正しい。きっと正社員なのだろう。


鬼の正社員の一言で、鬼のきたろうも応戦する。


<これは、ただのタトゥーじゃありません。漢字タトゥーです。>


[漢字でも漢字でもなくても、タトゥーはタトゥーですよね。ダメなものはだめなんです。出て行ってください。]


またもや正論。正社員も負けてはいない。きちんとルールを守らせることができるから、正社員という称号をてにしているのだ。

そんじょそこらの、鬼タトゥーの奴には負けない。


鬼太郎は、大きさで応戦する。


<これは、そこまで大きくないし、ほられている面積だって小さいでしょ。>


[大きさではないんです。あるかないかだけです。出て行ってください!]


正社員はでて行ってくれと3回目だ。


ここまで言われたら、ふつうはおとなしく帰るようにするが、鬼太郎は、もってきていた、テーピングで

肌を隠そうとした。


きっと、浴場はタトゥーが禁止と知っていて、あらかじめ、買っておいたのだろう。

慌てて、ビニールを破る。

おもむろに鬼の上に貼りだした。


[だからだめですって!出て行ってください。]


死刑宣告ともいえる、4回目だ。


きたろうは、固まったまま、動けない。


私たちは、いたたまれなくなって、目線をさげた。

そこには、『鬼』という字にそって、テーピングを貼ろうとしていた様子がわかった。


それでは、黒字から白字に代わって、フォントが少し大きくなるだけじゃんと私たち一同は

心の中で感じていた。