そうして、知識や技術については、向上したところで現実との差異が生じて葛藤が大きくなるだけと思って、専門書は何年も本棚の奥に仕舞い込んだままになっていました。
この頃、このままでは自分らしさを失ってしまうような気がしたので、あえて時間をつくって専門書を見るようにしています。

以前は、どれが採算が合うかや材料の調達は可能かと“ふるい”にかけて見るだけでしたが、今は製品になった経緯やどのような発想で作られているかという視点で読んでいます。
すると、一見関係のないようなものでも発想や作り方が参考になって、その製品ひとつにとどまらず、考えが広がり応用がきくことがわかりました。

私はフランス料理のレストランでパティシエをしていたとき、そこは、フォンドヴォーでもソースでも徹底して自前で作っているところで、とりわけ忠実に作ることを教えられました。
この経験だけが原因ではないのですが、私には基本に忠実にさえしていれば安心という考えが染み付いています。
改めて考えてみたのですが、基本への忠実さばかりに頼って、自分に自信がなければ独創性の生まれる余地はないなと思いました。

喩えが適切かどうか分かりませんが、僻地だからと医療知識の向上に意欲のない医者には診て貰いたくないし、教えることが同じだからといって研鑽を積まない教師の話は詰まらないと思います。
技術の向上を目指して自信を持った菓子職人が作ったもののほうがお客様に喜んでいただけるような気がして、また、そうでないと独創性のあるものは生まれないのかなと。
ようやく、そのようなことに気が付きました。