ジャケ買いではありませんが、
題名がイケてます。
誰だって「ボスは知っている」と言われたら
「何を知ってるの?」と興味を持ちませんか?
僕だったら、興味津々です。
チョンキンマンション(重慶大厦)といえば、
香港のフェリー乗り場にほど近い絶好の
ロケーションながら、怪しい匂いがプンプン
する「魔の巣窟」扱いされる伝説的な建物。
様々な商業施設、飲食店、安宿が大きな
建物の中に同居している、日本ではちょっと
あり得ないような異空間です。
何を隠そう僕は沢木耕太郎の深夜特急に
憧れて、バック・パッカーで単身このマンションに
泊ったことがあるのです(時はまだ20世紀)。
この本に興味をひかれないハズはない。
チョンキンマンションのボスは知っている
春秋社 ¥2,000 + 税
この本の素晴らしいところは只のルポに
終わっていないところ。
ルポとしても充分面白いのだけど、そこに
人類学者ならではの視点から、昨今の
ギスギス・殺伐とした世界や日本社会と、
「ついで」を中心として回るタンザニア香港組合
のゆる~い人の繋がりを比較して論じている
章がとても興味深い。
以下、本書より抜粋
他者の「得体の知れなさ」を「未知/不可知の可能性」として歓迎し、「ついで」の親切を提供することで気軽につながろうとする
これを筆者は開かれた互酬性と呼んで
いますが、応答の義務に囚われず、
「ついで」や「無理なくできること」
で助け合うことが
「わたしはあなたとともにある」という意思表明
になり、関係性を更新し続ける原動力になる、
としています。
一方でシェアリング経済といわれる主な
システムは、信用スコアなどにより信用の
不履行を起こしそうな人間を排除するので、
誰にでも開かれている仕組みではないと
論じています。
チョンキンマンションのボスは、不完全な人間とままならない他者や社会に自分勝手に意味を持たせることがどういうことかを知っている。自分に都合よく他者や社会を意義づけることにより、裏切られる事態を含めた不確実性が存在することの重要性を知っている。彼らの仕組みは洗練されておらず、適当でいい加減だからこそ、格好いい。
日本人は生真面目すぎるので、彼らの様に
「テキトー」にゆる~く互助的な人付き合いを
するのは難しいかもしれません。
ただ彼らの、義務感や「~すべき」といった
ルールに縛られ過ぎない生き方は何だか
温かく人間味もあり、憧れる部分もあります。
本書の帯に
100%信頼できる人はいない。
だからうまくいく
とありますが、うまいコピーだなぁと感心。