本「廃用身」 著者 久坂部 洋
★★★★☆ (個人評価 ★多めならおすすめ)
神戸で老人のデイケアを行っている医師漆原は、老人の麻痺した手足を切断し、介護を楽にそして本人達にも開放感を得てもらう療法を実行する。
当然手足を切断するわけで漆原にも葛藤はあり、決断実行するまでの思考や周囲の反応、切断する老人たちの状況等を詳しく漆原本人が書き下ろした原稿という形で本書はすすんでいく。
麻痺した手足(廃用身)を切断するという画期的療法を世間に認知させるために本を出版するという前提で漆原の原稿、編集者の追記という流れで、まるで本当に漆原という人間が存在し本が出版されそれを読んでいるかのような錯覚に陥る。
最初読み出したときに、あれ?この本、作者は漆原になってるけど、久坂部って名前じゃなかったっけ?と思わず表紙を読みなおしたくらい。
麻痺し、介護者や本人にとって邪魔でしかない手足を切断する。
確かにこのような選択肢があってもおかしくないとは思った。
特にリハビリしても絶対に動かない、ましては痛みや痺れがあり不快感を伴うのであればなくなってもいいのかな、と。
ただ切ってしまえば取り返しがつかない。
病気や事故でやむなく切断するならともかく、選択の余地があるなかでの切断は決心しずらいだろう。
いくら動かないとはいえ、切ってしまえば外見上の変化はとてつもなく大きいわけで、あとでやっぱりイヤだとなっても治せないからね。
介護が楽になる部分での切断を漆原は主張していたけど、介護する側からすれば、その理由のみで切断を促すわけにはいかないだろうしね。
例えばうちの母や父が寝たきりになって足が動かない、寝返りも打てないから床ずれがひどい。本人も大変だから…と足を切断するかといえば…。
あ、やっぱしムリかも。
日本では親からもらった身体に傷をつけるなんて言語同断…という考え方が一般的だから整形に対してもそこまで認知されてないもんなぁ。
だからこそ、臓器提供や献体が少ないんだろうし。
なんとなく、せっかく五体満足に生まれたのであれば、五体満足で死にたい…という感情があるんだろうな。
この療法は画期的だけど一般受けはしないだろう。
本人の意思と言っても人間の感情なんてその時々で変わるもんだし、あとでやっぱり…となる可能性は捨てきれないからね。
ただ…高齢化社会というのは奥深い問題を抱えているなぁと改めて考えさせられたわ。
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