「迷宮警視正」 著者 戸梶圭太
★★☆☆☆(個人評価 ★多めならおすすめ)
定時制高校の生徒が急性のニコチン中毒で死亡。
刺された傷から高濃度のニコチンが検出される。
殺人事件の捜査にやってきたのは星乃神警視正。
おつきの者たちを従えてリムジンで学校に乗り込んできた。
その姿はまるで吸血鬼のように、顔はあくまで白く何もかも見透かすような大きな黒目、音もなく動く。
その後、同じ定時制高校の元生徒までもが殺される。
一体誰が犯人なのか?!
型破りな警視正に犯人を見つけることができるのか?!
読み終わってから…「なんじゃこりゃ」
なんていうか、まず主人公の星乃神警視正のキャラが掴めない。
読む前は、「謎解きはディナーのあとで」に出てくる椎名桔平演じる刑事のイメージだった。
お金持ちで、権力を笠にきて推理力もないくせに捜査にしゃしゃり出てくる感じ。
ところが、全然違った。
コメディですらない。
かと言って真面目な警察小説でもない。
どことなく中途半端でつかみどころがない。
こういう小説の場合、主人公の星乃神がもっとキャラ立ちしていればいいのだけれど、イマイチ確立されてない感が。
確かに得体が知れないんだけど、どうやって部下をあそこまで服従させてるのかとか、リムジンに乗ることは警察官として許されているのかとか、なんかよく理解できないまま話が進んでいく。
途中で、星乃神を怪しい宗教の一員だと考え、できれば警察を辞めさせたい警察幹部の一人が、星乃神の過去を調べさせる。
けれどこの巻ではその結果はまったく示されない。
その宗教は東ヨーロッパで発生したもので、支配階級の人間は人間の血を飲み、それに仕える食人労働階級、それ以外の家畜人間という3階級に別れている。
その支配階級の一員として星乃神がいるのではないかと疑っているのだ。
そんな人間が警察官として存在するのが許せずなんとかクビに出来ないかといろいろ探る。
とりあえずはその宗教に潜入する捜査官を任命し、東欧に送り込むことになるところだけ書かれている。
小説の中では、星乃神が吸血鬼らしいところは、どうやら暗くなってからしか外に出ないとか、音も立てずに移動するとか、それくらい。
確定めいたエピソードはまったくない。
ここらへんもなんかもぞもぞする感じ。
どっちやねん!と言いたくなる。
おまけに捜査も杜撰で、行き当たりばったりな感じ。
犯人が見つかるのも偶然の産物のような。
犯人の行っている犯罪は唾棄すべき人間とは言えないようなもの。
その辺は結構どす黒いし、スカトロ女優が結構重要なファクターになったり、ちょっと女性が読むにはえぐすぎる。
警視正の部下の一人、間中という人物もキャラが確立されていない感じでもどかしい。
最初は、星乃神の忠実なしもべかと思いきや、途中から間中視点の話になってしまい、途端に普通の人っぽくなってしまう。
星乃神率いる他の部下たちとも仲は良くないし、その部下たちも善い人間とは言えないし。
なんていうか、どこに感情移入するのか、どこで笑うのか、どこで感心するのか、どこではらはらすればいいのか、全然わからないのが気持ち悪さを覚える理由かも。
警視正自体に魅力をまったく感じないし、あっさり敵に捕まってかろうじて逃げ出すとか、別に完璧ってわけでもない。
多少、魅力的な女性にモテるのか?という描写もあるけど、貴族風な感じが受けるのかもな…程度。
容姿について言及された箇所がないため、その姿すら明確に見えてこない。
当然部下の間中についても、見ようによっては好青年風としか書かれてないため、しっかり人物像を描けない。
これらはすべて、星乃神がカルト集団の一員なのかどうかも含めて、次巻で明かされるのだろうか。
それならまだいいけど。
この小説で唯一、血の通った人間らしい登場人物が小山だ。
定時制高校の教師で、熱血と言ってもいい。
生徒のため一生懸命で、生徒を傷つける者を許さない熱い教師だ。
彼だけはしっかりキャラがあって、時には世の中を悲観しそうにもなるけど、生徒たちをなんとか社会復帰させようと必死に努力している姿は好感が持てる。
小山だけはなんだか良かったな。
人間ぽくて。
まぁ良い人すぎるっちゃーそうなんだけど、こういう先生がいてくれたらいいな…と思う程度には心惹かれる。
結果、主人公の警視正には謎が多すぎて、魅力を感じられないし、部下の間中にしてもドジで間抜けで愛すべきキャラってわけでもない。
事件の背景にある里親制度とか本当にあるのかもしれんけど、問題を投げかけるだけ投げてあとはほったらかしかい!って気にもなる。
コメディなのか普通に警察小説書きたいのか、主人公を吸血鬼もどきにして少しホラーちっくにするのか、ドジな部下を冷静で頭脳明晰で富豪の警視正が温かく見守るのか、どういう趣旨を持って書かれているのか理解できなかった。
もっと主人公のキャラがしっかりしていれば面白かったのに…と残念。
次巻で謎が少しは解けるよう祈りつつ読みたいと思います。
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