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スメタナ「わが祖国」を聞く
どうしても今こそ聴きたくて、
東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会
スメタナの連作交響詩「わが祖国」に行きました。
指揮はミハイル・プレトニョフ。
ロシア人の方です。
チェコ出身のスメタナが作曲したこの「わが祖国」は、
運命に翻弄されるスラブ民族の歴史を描いたもので、
全6曲のうち、第2曲の「モルダウ(ヴルタヴァ)」は
美しくもの悲しい旋律が特に有名ですね。
*
スラヴ人とは、
ヨーロッパの東側の広大な領土に暮らす民族で、
東スラヴ、西スラヴ、南スラヴの3つのグループに分けられ、
東スラヴにはロシアとウクライナが含まれています。
スメタナと同じく
西スラヴのチェコを代表する芸術家である
画家アルフォンス・ミュシャが
この「わが祖国」を聞いたことにインスパイアされ、
民族の解放と自由の願いを込めて
20枚から成る連作『スラヴ叙事詩」描き上げたと言われています。
2017年にこの作品群が日本にやってきた美術展は
とにかく打ちのめされました。
作品の大きさが、1枚6×8m!!
その一枚ずつに
スラヴ民族に伝承される神話や悲劇が描き出されています。
実は私、最初はこの「スラヴ叙事詩」が苦手でした。
それは、戦や祭りなど民族の営みを描いている場面に
唐突に別な場面の人々や神々の姿が上書きされているからです。
その出現の仕方は
宙に浮いていたり、大きさもマチマチだったり。
しかも無造作にレイヤーを重ねたように
下の絵を隠してしまうような構図なんです。
でも、ずっと眺めているうちに、
これは「人」というよりも「土地」を描いているのかもしれない、
そう思えてきたのです。
この土地で何が起きたのか、
神のように俯瞰して見たら、
人間の歴史なんてギュッと凝縮されて見えるかもしれない。
時空というか、次元を重ねて見たら、
きっとこう見えるのではないだろうか、
そんな気がしてきたのです。
戦争の歴史は、「土地争い」。
この土地で繰り返される争い、悲しみ、愛、喜びが
一枚に凝縮されているのではないだろうか。
(あくまで私の感想ですよ)
*
日本でもよく知られる「モルダウ」は、ドイツ語。
実はチェコ語では「ヴルタヴァ」といい、
プラハを流れるヴルタヴァ河のことなのです。
冒頭は二つの水源がクルクルとか細く舞い、
合流して徐々に豊かな川の流れになり、
激しい急流や農民ののどかな暮らしなどを想起させ、
やがて首都プラハに流れ込む光景が
国の過酷な歴史と二重写しになって描かれている曲だそうです。
美しいけれど、
どこか落ち着かない気持ちにさせられるもの悲しい調べ、
抗えない運命に涙を流し
それでも歯を食いしばって生きてきた人間の歴史を思い、
悲しさの中に強さを見出した気持ちになりました。
今日の指揮者のミハイル・プレトニョフは、
もともと2020年3月にこの曲を演奏するはずでした。
ところが、コロナ禍で3度の延期。
4度目にしてやっと実現した演奏会が
ロシアのウクライナ侵攻の最中となるとは、
どのような胸中であったでしょうか。
でも、こんな時だからこそ
芸術の力をも借りて
争いの虚しさを訴え続けて行かなければならないと願うのです。