夏の「女子アナワークショップ」清水潔氏による報道研修編
「原元美紀の女子アナワークショップ」、
清水さんは、そんな大変なことを幾度となくやってこられました。
その時36歳でしたから、周りには
殺人事件、冤罪事件、歴史的事件と、
その答えは、一言でした。
「自分と相手を入れ換え出来たときにうまくいく」
そこで、災害報道の取材経験が豊富なキー局報道記者の方をお招きし、
夏の短期集中講座の2日目は、
「女子アナだってジャーナリスト」というタイトルで報道研修を行いました。
アナウンサーの仕事は、「大事な情報を必要な人に届けること」。
根幹はやはり「報道」です。
自分の声や言葉で、
誰かの命や心を救えたと感じたことのあるアナウンサーは
一体どれだけいるでしょうか。
また、報道ルールは時代とともに変わります。
最新ルールをちゃんと踏まえているでしょうか。
それには、報道にはなにができるか、
なにをすべきかという根っこを知らなくてはならないと思います。
そこで、ゲスト講師に、私の師匠であるジャーナリストの清水潔さんが、
「若手の皆さんに…」とお話しに来てくださいました。
「桶川ストーカー殺人事件」でたった一人で警察より早く犯人を突き止め、
ストーカー規制法成立のきっかけを作り、
「足利事件」では17年半も投獄されていた菅谷利和さんの冤罪を
調査報道により真相を暴くなど、
数々のスクープで知られるジャーナリストです。
清水さんが手掛けるのは、
「発表報道」という官公庁などが発表する情報を報道するものではなく、
「調査報道」と呼ばれる記者の独自取材です。
発表に頼らないということは、一から情報を集めなければならず、
その労力は大変なものです。
事件関係者の重い口を開かせ、
膨大な資料や果てしない聞き込みに絶望することなく真犯人を見つけ出し、
真相にたどり着く。
清水さんは、そんな大変なことを幾度となくやってこられました。
しかも、いつも周りが「そんなの無理だよ」と止めたり
協力どころか冷ややかに見たりするような難題にばかり
取り組んでいらっしゃいます。
「桶川ストーカー事件」も「足利事件」も、
たった一人でコツコツと取材を重ね真相を暴き、
その手法を書き記した書籍は、全国の報道記者のバイブルと呼ばれています。
私が清水さんと出会ったのは、今から15年ほど前になります。
当時キャスターを務めていた日本テレビで、
よく取材のお話をお聞きしているうちに、こう感じました。
「なんだこの人はっ!
揺るぎない根拠を元に 『王様は裸だ!』 と言える人だ」
「信念の塊」のような清水さんを見て、いても立ってもいられなくなり、
スタジオでニュース原稿を読むだけでは我慢が出来なくなり、
「私も現場に出たい!」とリポーターに転身したのです。
その時36歳でしたから、周りには
「その歳で辞める人はいても、今から現場に出る女の人なんていないよ」
と止められたものです。
清水さんからも驚かれ、
「いやあ、10年も続けているとは、まさか思わなかったよね」
と言われました(笑)
と言われました(笑)
さて、若い女子アナたちが清水さんに会って、
どんな化学反応を起こすのか楽しみでした。
思った通り、清水さんのこれまでの取材のお話は、
彼女たちにとっても衝撃だったようです。
「桶川ストーカー事件」では、
警察に助けてもらえず、白昼刺殺された被害者の女子大生や遺族が
さらに報道被害に遭い、どれだけ辛い思いをしたのか。
また、その名誉回復や事件の真相を明らかにするために、
マスコミ不信に陥った遺族の方にどのように心を開いて語ってもらったのか。
「足利事件」では、冤罪を訴える「無実の人」の声に耳を傾け、
絶対視されていた当時のDNA鑑定結果が間違っていたことを証明し、
さらには、他の事件も合わせて、
「同一犯による連続幼女誘拐殺人事件」だと指摘し、真犯人に迫る。
先日は「南京虐殺」を取り上げた調査報道番組で
ギャラクシー賞を受賞。
殺人事件、冤罪事件、歴史的事件と、
なぜ清水さんは次々とスクープを取ることが出来るのか、
日頃どうやってアンテナを張り、どんなことを心がけているのでしょうか。
受講生からはたくさんの質問が寄せられましたが、
これが一番の疑問だったようです。
「どうやって相手の心を開かせていったのですか?」
「どうして清水さんにだけ信頼して答えてくれたのですか?」
その答えは、一言でした。
「自分と相手を入れ換え出来たときにうまくいく」
もし自分が相手だったら、どんな風に聞いてもらったら答えるか?
と深く深く考えるのだそうです。
時間に追われ、自分の都合ばかり押し付けてはいないだろうか?
自分や相手の言葉が足りないときにフォローできず、
誤解され、世間からバッシングを受けてしまう可能性だってあります。
相手を思いやる姿勢そのものが相手に伝わり、
信頼を得られることに繋がるのではないか、ということなのでしょう。
実際、清水さんの取材を受けた人が、
それを機に、前向きに一歩人生を踏み出せるようになることを
確信を持って放送しているように感じます。
そばで見ていて、「ここまで考えるの?」「こんなことが出来るの?」
と私自身衝撃を受けました。
人の人生に踏み込む覚悟と責任の重さや深さを考えることが
大事なのではないでしょうか。
たくさんの命を見つめてこられた清水さんが
最後に励ましの言葉をくださいました。
「あなたたちの仕事は必ず誰かの役に立っているはず。
普段は人の役に立ってるのかなんて実感なんかなくてもいいんですよ。
でも、3.11で、2万人近くの人が亡くなるんだけれども、
テレビやラジオの放送のおかげで津波から逃げて命が助かった人もいます。
『いつもニュースを読んでくれているアナウンサーのお姉さんが
必死に、必死に伝えている』。
それが全力で逃げる理由になるんですよ。
そのために皆さんはいるわけです。
その一瞬のために我々はいる。
有事の時、自分はいったい何ができるのか、
ということを普段考えていてくださいね。
ここに気づいたら、普段の辛い仕事なんて乗り越えられますよ」
この言葉を受けて、みんな、初心に帰ったり、
今の自分の見つめなおしたり、やる気に満ち溢れたり、
いろんな思いがよぎって、最後は涙々の回となりました。
人生が動き出す日となったら嬉しいです。
<次回のお知らせ>
9月は「災害報道」についてのワークショップです。
近年、地震や津波、大雨など自然災害の規模が大きくなり、
報道の現場で情報を伝えるアナウンサーにも
正確な知識、的確な判断力がますます強く求められています。
そこで、災害報道の取材経験が豊富なキー局報道記者の方をお招きし、
「アナウンサーが知っておく知識」、「伝え手が最も大切にすべきこと」など、
現場での取材方法、心構えなどを語っていただきます。