「かぐや姫の物語」3つの衝撃! | 原元美紀 オフィシャルブログ 「原元美紀のミキペディア」 Powered by Ameba

「かぐや姫の物語」3つの衝撃!

スタジオジブリ作品の「かぐや姫の物語」が、
米アカデミー賞長編アニメーション部門に
ノミネートが決定したというニュースが入ってきました。
 
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この作品には大変な衝撃を受けました。
 
実は私が講師を務める東京アナウンスセミナーで、
生徒たちに『映画紹介』という課題を出したところ、
この作品を選んだ生徒が、
「国宝にしたい!」
「かぐや姫にも喜怒哀楽があったのを初めて知った!」
と評していたのが印象的で、
早速自分も観に行ってみたのです。
 
果たして、生徒の言葉通りでした。
 
***
(少しネタばれ)
 
私が感じた衝撃は大きく3つに分けられます。
 
1つ目は映像。
 
8年もの歳月をかけて完成されたアニメーションとのことですが、
まるで筆で描いた水彩画のようなタッチで、
なおかつ動画のような滑らかな動きは、
背景と人物がどの場面を見ても一体化しています。
 
2つ目は、かぐや姫に人格を持たせたこと。
 
振り返ってみると、
小さい頃絵本で読んだ「かぐや姫」は、
『竹から生まれて急速に成長し、
都で評判の美女になりたくさんの男たちに求婚されるが、
無理難題を言って断り、
育ての親のおじいさんおばあさんが戸惑う中、
月からの迎えが来て唐突に別れを告げて地球を去る』
というお話でした。
 
かぐや姫がどんな性格で、
そもそもなぜ月から地球に来たのか、
なぜ帰るのか明かされていませんでした。
 
ほとんどの人が
「たまたま宇宙旅行中にでも地球に落っこちてしまい、
拾ってくれたおじいさんおばあさんに育ててもらったけど、
やはり月が故郷なので
地球人と結婚するわけにいかないから帰った」
と、思ってやしませんでしたか?
 
恥ずかしながら私もその程度の認識でした。
 
しかし、1000年もの昔に書かれた(作者不詳)
日本最古の物語(しかもSF!)であり、
日本文学の基礎とも言える作品なのに、
これほど放って置かれるというのも酷い扱いです。
 
私たちは日本で最も有名なヒロインのことを何も知らない…、
この作品によってそこに気付かされ、
ガーンと衝撃を受けました。
 
画面いっぱいに生き生きと動き回るかぐや姫は、
「深窓の令嬢」どころか大変なオテンバ娘です。
 
野山を駆け回るし、
美しい着物やお歯黒を嫌がるし、
おじいさんや求婚者、帝にまで反抗する激しい気性の持ち主です。
 
けっして翻弄されて
ただ大人しく嘆いているだけの娘なんかではありませんでした。
 
また、かぐや姫のこの性格は物語の重要な鍵となり、
周囲の人たちの運命をも変えてしまうのです。
 
 
そして、3つ目の衝撃は、
かぐや姫がなぜ地球に落とされたのか謎が解けるということ。
 
キャッチコピーにもズバリ「姫の犯した罪と罰」
表されている通り、
彼女はある罪を犯し、
その罰として地球に送られていたのです。
 
その彼女の罪と罰は作品のラストにしっかりと明らかにされます。
 
高畑勲監督がこの物語の謎に真正面から取り組んでいます。
 
最近多く見かける
「どちらにも受け取れるような結末なので、
解釈は見た人に委ねまーす」
といった甘さや遊びは微塵もありません。
 
それは、天上界の描き方に感じられます。
 
かぐや姫を迎えに月から天女たちが雲に乗ってやって来ます。
 
それは私がこれまで絵本で見たものとは全く意味が違いました。
 
絵だけ見ると、
「優雅に天から迎えが来て帰っていく」
というお迎えの場面は絵本と同じなのでしょうが、
アニメーション作品になったことで、
 
「え?こんな音楽!?」
 
と、天女たちの奏でる音楽や動き、その瞳などに
『天上界がどんな世界なのか』を表現されています。
 
これは高畑勲監督の最大のメッセージだと受け取りました。
 
 
こうした、かぐや姫の人物像や天上界の解釈に
衝撃を受けたあまり、
一体どこまでが高畑監督のオリジナルなのか、
原作「竹取物語」を読み返してみました。
 
(「青空文庫」にも、現代語訳版がありますよ。
興味ある方はぜひ)
 
すると、これまた驚いたことに、
ほとんど原作に忠実な作りだったのです!
 
かぐや姫の喜怒哀楽豊かなセリフも、
なぜ地球に送られてきたのかも、
天上界では地球をどう思っているのかも、
実は原作に書かれていたものだったのです!
 
帝の求婚を受け入れるよう説得する翁に、
 
「むりに宮仕へをしろと仰せられるならば、
私の身は消えてしまひませう。
あなたのお位をお貰ひになるのを見て、
私は死ぬだけでございます」
 
と自決をの意志をを表明。
 
意志を持った女性の生き方を描いた古典作品としては
「源氏物語」が賞賛されていましたが、
こうしてあらためて読むと同じくらい強い印象を残します。
 
むしろ「竹取物語」は、
「源氏物語」よりも先の時代に作られたので、早かったのです。
 
 
そして、
月から迎えに来た使者が抵抗する姫や翁に向かって
構わずに告げる言葉
 
「今は姫の罪も消えたので、迎へに来た。」
「さあ〜姫、こんなきたないところにいるものではありません」
 
1000年も前にこの発想!?
月が地球をどう見ていたのかわかりましたし、
「どんな罪」だったのかを高畑監督が丁寧に描いています。
 
これはまさに奇跡の物語。
 
よくぞアニメーションにしてくれたと高畑監督に感謝したい。
 
 
また、お歯黒などのお化粧や牛車の乗り降りの仕方など、
当時の人たちの暮らしぶりも丁寧に描かれていて
歴史を楽しく学べます。
 
知らないことばかりだったなー。
 
 
そして、何と言っても、
プレスコ形式といって、役者が先に声を吹き込み
後から映像を合わせる手法が取られているので、
俳優さんたちの演技が自然で迫力もあり、
心に響きました。
 
とにかくいろんな常識を覆すアニメです。
 
受賞が全てではないけれど、
賞を獲って世界中の人に観てもらいたいと思う作品です。
 
喜びも悲しみも苦しみも、「生きている手応え」。
生きることの一つ一つが大切に思えます。