皇后さま15年越しの想い~でんでんむしのかなしみ~ | 原元美紀 オフィシャルブログ 「原元美紀のミキペディア」 Powered by Ameba

皇后さま15年越しの想い~でんでんむしのかなしみ~

53年ぶりにインドをご訪問中されている天皇皇后両陛下。


美智子さまは、「子どもの本を通して国際理解をすすめる」

IBBY(国際児童図書評議会)のインド支部のスタッフと懇談されました。


それは15年越しに思いが叶った瞬間でした。


1998年、かねてから児童図書への造詣が深い美智子さまは、

IBBYの活動に共感し、支援を続けてこられ、

インドで開催されるIBBYの国際大会でスピーチをされる予定でした。


皇后陛下単独で海外でのこうした活動は異例でしたが、

インドのスタッフの数年に及ぶ熱心な働きかけで

美智子さまのご出席が現実のものとなったのです。


しかし、その直前にインドが核実験を行ったことから、

ご出席が取りやめとなってしまいました。


美智子さまはその代り、ビデオメッセージという形で

「本の素晴らしさ」やご自身の「子供時代の読書の思い出」などを

伝えられました。


そのスピーチが大変素晴らしく会場の参加者の心を打ったばかりか、

書籍となって世界各国で読まれているのです。


「橋をかける~子供時代の読書の思い出」

文春文庫


(美智子さまのスピーチにまつわるエピソードも掲載されています)


photo:04


また、宮内庁のサイトでも全文公表されています。


第26回IBBYニューデリー大会基調講演




美智子さまは静かに語りかけるように

1時間近くのスピーチを皇居で収録されました。

(英語版と日本語版があります)


ご自身と本との関わりを率直に語られるその内容が本当に素晴らしく、

特に印象的だったのは、

「読書は私に、悲しみや喜びにつき、

思いを巡らす機会を与えてくれました。


本の中には、様々な悲しみが描かれており、

私が自分以外の人がどれほどに深くものを感じ、

どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、

本を読むことによってでした」


という美智子さまの思慮深いお人柄の原点を伺えるようなお言葉でした。



また、児童文学というと

子供たちに夢と希望を与えるイメージがありますが、

美智子さまがスピーチに取り上げられたのは、

意外なことに決してハッピーエンドではない作品が多かったのです。


『人生の複雑さを学んだ』として、

「まだ小さな子供であった時に、

一匹のでんでん虫の話を聞かせてもらったことがありました。」

と語られる美智子さま。


美智子さまが小学生時代の疎開先でよく思い出していた物語だそうです。


スピーチの中ではタイトルには触れられていませんでしたが、

実は私は、アナウンサーの師匠である

皇室ジャーナリストの久能靖さんに以前から

「美智子さまの一番お好きな絵本」として伺っていました。


photo:03



4日の「モーニングバード!」でご紹介したのですが、それがこちら。


新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」です。


photo:01


昭和10年の作品で、これまで何度も出版されています。

私が手にしているのは、

絵本らしく色鮮やかでどこかユーモラスな表情が目を引く

鈴木靖将さんの絵によるもの。(新樹社)


photo:02


自分の背中の殻には悲しみがたくさん詰まっていて

「生きていられない」と思っていたでんでんむしが、

周りに相談すると、友達もみんな悲しみを持っていることを知り、

嘆くのをやめた・・・というお話です。



美智子さまにとってこのお話はその後幾度も記憶に蘇ってきたそうです。

「生きていくということは、楽なことではない」とお感じになりながらも、

「この話が決して嫌いではなかった」そうです。


私なんかがとても理解できるわけもありませんが、

ご成長された美智子さまが皇太子妃、

そして皇后陛下として歩んでこられた人生は

御苦難も多かったことと思います。


初の民間出身のお妃とのことで、

戸惑われたり、苦しい思いもされたことでしょう。

ご自身は失声症になるほどお悩みになられたこともありました。


それでも、3人のお子様をご自身の手でお育てになり、

また災害が起きれば被災地に足を運ばれ

傷ついた国民を励ましてこられたり、

どんな時も天皇陛下に寄り添われ、

穏やかに佇んでいらっしゃるそのお心の清らかさは

やはり幼少時代から本によって育んでこられたことも大きいと

ご自身が思われていらっしゃるのでしょう。


美智子さまのスピーチはこのようなお言葉で締めくくられています。


「私にとり、子供時代の読書とは何だったのでしょう。

それは、ある時には私に根っこを与え、

ある時には翼をくれました。」






私自身は岩手県の被災地訪問の際、

「岩手県の童話作家にこんな作品があります」と

久能靖さんから初めてこの「でんでんむしのかなしみ」のお話を

聞きとても感動しました。


”誰だって悲しみをいっぱい背負っている。

みなその人なりの悲しみに耐えて生きているのだ。

自分だけと嘆いても仕方ないこと、人生とはそのようなものだから。

そして、他人の悲しみに気づける人になりたい”


と思いました。


奇しくも12月4日は東日本大震災から1000日。


復興の進み具合の遅さにどれだけの人が

悲しみをいっぱい背負っていることでしょうか。


その悲しみに寄り添う気持ちを持ち続けたいと思います。