「はだしのゲン」よ、永遠に | 原元美紀 オフィシャルブログ 「原元美紀のミキペディア」 Powered by Ameba

「はだしのゲン」よ、永遠に

「はだしのゲン」の作者の中沢啓治さんが

肺炎のため

73歳でお亡くなりになりました。

私の戦争に対する原体験がこの作品だっただけに、
言葉では言い尽くせない思いがこみ上げ、
とても悲しく涙が止まりません。


「はだしのゲン」は小学校のとき、

クラスの学級文庫として、必ず読むことになっていました。

実写映画の上映会もありました。

ストーリーは、中沢さんの実体験を元に描かれているそうです。

広島に暮らす少年ゲンの一家は戦争に反対を唱え、
町中から「非国民扱い」を受けます。

そして、原爆投下の日がやってきて、
大本営発表による戦勝ムードだった町は一変、
一瞬にして焼き尽くされるのです。

業火の迫る中、

倒壊した家屋の下敷きになった父、姉、弟を助けることができず、
ゲンは泣く泣く母親を連れて逃げ、生き抜く事を誓うのです。

と、ここまでは、あまりに有名です。


しかし、私は戦後65周年を機に、ふとこの続きが気になり、
全巻取り寄せてみました。

photo:01




驚いたことに、実は、原爆を落とされてからの方が
話がうんと長かったのです。

この愛蔵版でも、1巻のラストで原爆投下のシーンがあり、
2巻目以降はその後の人々の様子が描かれているのです。

原爆が狂わせた人々の生活と心とはどんなものだったのか。

果たして、広島はどうやって原爆から復興を迎えたのか。

ゲンが受けた冷たい仕打ちや、出会う人たちを通して、
人々の苦悩が残酷なまでに描き出されています。


特に、全身をウジ虫に被われ、口に絵筆を加えて、
自分が生きている価値を画にぶつけようとする画家の魂の叫びは
どれほど原爆の恐ろしさを伝えることか。

「ピカの毒はうつる」と差別され、この画家は家族にも見捨てられ、
介護もゲンに任せきり。

「かんたんに原爆のうらみをわすれさせてたまるか」と、
ケロイドに被われた裸の姿で町中練り歩き、
とうとう発狂して死んでいきます。


また、顔にケロイドが残り、黒い雨を浴びたと差別を受け、
働き口もなく、結婚も出来ないと嘆く女性たち。

荒んだ生活を送る身寄りのない子どもたちは、
ヤクザにつけこまれ、都合よくヒットマンにさせられたり、
麻薬に溺れさせられたりします。

もちろん、ゲンのように、
苦しい中でも、頑張って生活を立て直した人々の姿もあります。

そして、明るい希望を託した終わり方をしています。


人間の弱さも強さも作品に込め、
どんな綺麗事も通用しない世界が、
独特の強い筆致で、

人々の生命力の強さを感じさせる不思議な作品です。

涙を流しながらも心が折れず読み通す事ができました。



ところで、このBOXには、
「平和へのプレゼント」と書いてあります。

photo:02




「平和の」ではなく、ましてや「平和を」でもありません。

「平和のための」とも受け取れますが、
私は最近、「平和に対して」おくっているようにも感じるのです。

「戦争」を憎むと同じように、
「平和」に対してもすんなりとは受け入れず
疑問や挑戦があった気がしてならないのです。

「平和とはなにか!?」

ただ「平和」と唱えれば平和がやってくるのではなく、
「平和」を迎え、

自分たちのもとに留まらせるにはどうしたら良いのか、
常に考えていなければならないというメッセージに思えてきました。


6歳で被曝してから、
母の死への憤りを機に

原爆を題材に作品を世に送り出し続けた中沢さん。

その人生はどんなに憤りと慈愛に満ちたものだったことでしょう。

この作品に込められたメッセージは、
絶対に伝え続けなければなりません。

目をそらしてはなりません。

感謝をしながら、心よりご冥福をお祈りいたします。