私にできること
この一年ほどつらい年はありませんでした。
3月11日の震災が私を細胞から変えてしまったと思います。
取材で何度も被災地に入り、
多くの方たちの絶望と希望を知り、
受け止めきれず自分のちっぽけさに
胸がふさがってしまった時もありました。
それは一つ一つ自分のできることを誠実にこなすことで
なんとか自分を取り戻していくことが出来ました。
この仕事に就いてもう19年にもなりましたが、
大事にしているのは、そう誠実であることです。
口先だけに終わらず、行動も誠実に。
他人の目を気にせず、自分に誠実に。
何が起ころうとも、
自分が誠実に生きていることが支えになると実感しました。
そして心で思っているだけではなく、
被災地復興へ気持ちを誠実に形にする方法を探していました。
出演している「モーニングバード!」での取材、
所属しているスター混声合唱団の被災地訪問コンサート、
福島県の子供たちと沖縄で夏休みを過ごすボランティア。
そして、12月24日、舞踏会を開きました。
フルオーケストラの演奏で、オペラ歌手の歌を聴き、
社交ダンスやホテルのディナーを楽しむというコンサートです。
実は日本で舞踏会を開くというのは、
クラシックの指揮者をしている夫と私の夢でした。
ただその夢の実現はもう少し先のことと思っていました。
では、なぜ震災の遭った今年、舞踏会を開催したかというと、
「人の絆」を作りたかったからです。
震災以降、
各地でイベントやコンサートは中止を余儀なくされてしまいました。
贅沢や消費をする意欲が沸かないという精神的なものと、
節電から施設利用や交通網の制限がかかったこと、
なにより余震が続いていたことも理由に挙げられます。
私の業界も夫の音楽業界も、
このようなときにイベントやコンサートなど企画してよいものか
みな悩みました。
しかし、被災地の方たちを支援するためにも、
経済活動を停滞させてはなりません。
これまでやってきたことを通して、
これまで以上に頑張るべきだと思ったのです。
私の夫は宮城県出身。
賛同してくれたテノール歌手の樋口達哉さんは福島県出身です。
他にも東北に縁のある人たちが集まり、
音楽だからこそ出来る世の中への役割を考えたのです。
それが、「音楽で絆を作る」こと。
オーケストラの楽器は電気を使いません。
音の一つ一つが人の手によって生まれています。
また、オペラ歌手の歌は、元々マイクの無い時代から
オペラ・ハウス中に響き渡る訓練を積まれた肉声です。
この豊かな音と声は、
人の温もりが求められている今こそ役に立てるかもしれません。
音楽があるところに人は集まります。
人が集まるとダンスが生まれます。
そして気持ちが一つになります。
一つの空間で、
音楽を通して繋がりを感じてもらいたいというのが願いなのです。
そして、クリスマス・イブの晩に願いを込めて。
ロイヤルパークホテルの会場に
フルオーケストラの演奏が響き渡ります。
ビゼーの「カルメン」、レハールの「メリー・ウィドウ」、
プッチーニの「ラ・ボエーム」など、クラシックの名曲が並びます。
テノール歌手の樋口達哉さん。
日本人離れした豊かな声量で、日本のオペラ界期待のテノール。
「トゥーランドット」は圧巻です。
ソプラノ歌手の河村 右さんは、
通常のソプラノより高い音域が出る貴重なハイソプラノの持ち主。
モーツァルトの「魔笛」から「夜の女王のアリア」など聞かせてくれました。
同じくソプラノ歌手の佐藤篤子さんは、イタリア在住。
ヴェローナ、ミラノなど、北イタリアを中心に
多くのコンサートに出演されていて、
明るい響きの歌声と表現豊かなパフォーマンスが魅力。
ウクライナのチャンピオン
「オレクシー&リカコ」ペアが登場し、
華やかで躍動感のあるダンスでお客さんを魅了。
フクシマの原発事故は他人事ではありません。
「日本の人たちを元気づけたい」と
ダンスの国籍を6月から日本に移したのだそうです。
そして、私はテレビ朝日アナウンサーの田畑祐一さんと
司会を務めました。
まだ声帯が完治しておらず不安なままでの司会でしたので、
田畑さんがリードしてくださり感謝です。
さて、今回のもう一つのお楽しみ、それは社交ダンスです。
果たしてどれくらいのお客様が踊ってくださるのだろうか、
ドキドキしてこの瞬間を迎えましたが、
とてもたくさんの方がフロアに踊りだしました。
私にとって、夢が叶った光景です。
涙が出るほど嬉しかった~。
心ゆくまで楽しんでいただけたら幸いです。
そして、ファッションデザイナーのコシノジュンコさん、
ファッション評論家の石原裕子さんが
ベストドレッサー賞の選出をしました。
日本ではなかなか正装して出かける場がないものです。
でも、今夜はみなさんここぞとばかりにハイレベルなお召し物です。
選ぶのは本当に大変でした。
お客様でいらしてくださった女優の音無美紀子さん、
タレントの橋本志穂さんも素敵です。
私も気合を入れてコシノジュンコさんのドレスをお借りしました。
しかし、コシノジュンコさんの着こなしには誰も敵いません。
頭に着けていらっしゃるのは、『ウサギの耳』だそうです。
ギリギリまでゆく年を味わっていらっしゃる…。
さて、見事選ばれましたお客様にはホテルのディナー券が贈られました。
おめでとうございました。
客席にはスター混声合唱団の仲間たちも駆けつけてくれました。
みんなの顔を見るとほっとします。
「モーニングバード!」からは黒宮千香子 リポーターと
カメラマンの久美ちゃん。
そして、セント・フォースの望月理恵ちゃん も。
みんなもいつもの仕事着(!)から変身。
ドレッシーな装いで出席してくれ感激です。
ありがとう。
今回の舞踏会開催は、
なかなか言葉で説明しても理解してもらいにくく
当日まで困難なことがたくさんありました。
でも、こうしてたくさんのお客様の楽しんでいらっしゃる様子を
見ることができて本当に良かった。
お洒落をして、音楽を聴いて、ダンスを踊って、美味しい物を食べて、
そうした場に人が集まり、思いを共有して
もっともっと楽しみたいという気持ちから文化が育つと思います。
こういう力が残っている限り、また築いていけると思うのです。
来年も一人でも多くの人の笑顔が見られますように。