だいじょうぶ、お金はなくても子は育つ 2 困ったときは、きっと誰かが助けてくれる | スピリチュアルライフ ー 原水音のマザーアースカフェ

スピリチュアルライフ ー 原水音のマザーアースカフェ

アメリカ、屋久島を経て、熊野の自然のなかで暮らしています。四人の子どもを自宅出産、自然育児で。スピリチュアルでエコな体験をおしゃべりしちゃいます。

 

雪にうもれた車のなかで凍え死ななかったのは、

 

男友だちのススム君が車に積んでおいてくれた毛布と寝袋のおかげだ。

 

飢えずにすんだのも、

 

「昨日のカレーの残りだけど」

 

彼がタッパーに入ったご飯とカレーを持ってきてくれたおかげ。

 

「おいしい!」 

 

笑顔で冷たいカレーライスをほおぼる、あさっての京子さん。

 

冬山に、あさって情報だけを頼りに向かったわたしがバカだった。

 

もうー、ふて寝するしかないわー。

 

寒さも不安も京子さんへの怒りも、睡魔には勝てなかった

 

 

 

 

翌朝、うるさいエンジン音で目が覚めた。

 

雪を吹き飛ばしながら、バイクが何台も車の横を走っていく。

 

やった、助かった!

 

あわててドアを開け、「ヘルプ」と叫ぶ。

 

最後の一台が止まってくれ、エンジンをふかして

 

なんとかスタックした車をけん引してくれた。

 

ありがとー、と手をふって車を動かしたとたん、

 

また、雪に埋もれた。

 

くうー、どないしたらええねん!

 

思わず、へんな関西弁が口をつく。

 

「わたし、歩いて、山の人たちに応援たのんできます」

 

あさっての京子さんはそう言うと、手をふって雪のなかに消えた。

 

「ちょっと、止めたほうがいいよ。遭難したらどうするの」

 

ススム君はオロオロしていたが、わたしはなぜかまったく心配していなかった。

 

 

あさっての京子さんは、この世的に見れば社会不適応者かもしれない。

 

でも、理性でリミッターをかけていない直観力が彼女の武器だ。

 

「困ったときには、誰かが、ふっと現れてわたしを助けてくれるの。

 

まるで見えない誰かさんがいつもじいっとわたしを見守っていてくれて、

 

助ける役のひとを用意してくれてるみたい。」

 

 

1時間後だったのか、2時間後だったのか覚えてない。時計も見なかった。

 

彼のタバコがつきかけた時、遠くのほうから車のエンジン音が響いてきて、

 

目の前にあずき色の渋いジープが止まった。その後ろには旧式のトラックも。

 

ドアを開けて飛び出してきたのは笑顔いっぱいの京子さん。

 

「約束通り、山の人たちを連れてきました。」

 

雪道を歩き始めてすぐ、彼女はパトロール中の森林警備員に拾われたらしい。

 

さすが、あさっての京子さん。

 

素早い身のこなしで運転席から飛び降りた男性は日本人か。

 

この寒いなか、薄い絣のモンペに黒い長靴、

 

ひたいには煮しめたような色の手ぬぐいをキリリとしめている。

 

彼が山の共同体の村長さんだ。

 

続いて、綿入れを着た白人女性が、幼い子どもを抱いて出てきた。

 

彼の奥さんで山のビッグママと、その息子だ。

 

金の混じった長い髪、ふっくらほっぺのかわいい天使は、

 

藍染のちゃんちゃんこを着て、ママに抱かれていた。

 

トラックからゆったりと降りてきたのは、

 

銀髪にもしゃもしゃの髭をたくわえたハンサムな初老の男性。

 

ドクターボブと呼ばれる彼は、昔は名うての精神科医だ。

 

ボブはススム君にウインクすると、

 

「よく来たね。これから君たちを迎える歓迎パーティーをするよ。

 

でも、困ったことにビールが足りなくてね、いっしょに町まで買いに行こう」

 

ススム君とボブを置いて、私たちはジープに乗り込み、山へ向かった。

 

車がカーブを切るたび、木々のあいだに見えかくれする麓の町が、

 

ミニチュアになっていく。

 

突然、視界がひらけた。

 

森にいだかれた大草原に、真っ白なUFOが着陸している。

 

ジープはその前で止まった。

 

近くで見ると、それはUFOではなくて、

 

白いキャンバス生地が張られた円形の家、ヤートだった。

 

モンゴルのパオそっくりの家のなかに、おそるおそる足を踏み入れると、

 

「やあ、いらっしゃい」

 

日本語だ。

 

頑丈そうな四角い鉄のストーブの上に置かれたドラム缶の中から、

 

手ぬぐいを頭にのっけた男性がニヤリと笑った。

 

それが、このヤートの主、ヒデさんだった。