去年の五月に、兵庫県の出石へ旅行に行った。
かの有名な
『皿そば』
を食べまくろうという趣旨の愉快な旅だ。
出石に到着し、市営駐車場に車を停めると、真っ先に目に入ったのは皿そば屋ではなく、肉屋。
外ののぼりには、
『揚げたてコロッケ』
とか、
『メンチカツ』
といった、人の心を躍らせる現代の呪文が書かれている。
だが、今回の目的はあくまで皿そば。
最低でも二軒は食べなくては意味が無い。
後ろをチラチラと振り返りつつも、皿そばを求め歩く。
出石には皿そば屋さんが軒を連ねており、選び放題だ。
皿そば屋、到着。
およそ四分ぐらいの道のりだ。
皿そば、五枚完食。
次の店へ。
皿そば屋、到着。
およそ、三分の道のりだ。
皿そば、五枚完食。
店を出て、お土産等を物色するも、例の呪文が頭から離れない。
妻との家族会議(二人だが)の結果、満場一致で(二人だが)肉屋に向かう事が決定した。
肉屋、到着。
一軒めの皿そばをたいらげてから、ここまで約二十五分。
もはや芸能人か政治家並のタイムスケジュールだ。
肉屋の店内は決して広くなく、まあ、見た目通り。
ソーセージ等の加工品をひとしきり眺め、そこにあった試食をつまむ。
何気なしに食べたのだが、これがやたらにウマい。
輪切りにしてあり、
『ソーセージの小片』
であるにも関わらず、プリッとした歯応え、そこから滲み出る肉と脂の動的な旨味、それらをまとめあげるハーブ類の静的な香り。
そして、まさに絶妙としか言いようのない塩加減。
これらが相まって、口の中に圧倒的な存在感を醸し出す。
この
『圧倒的な小片』
で、すっかり皿そばをリセットした僕達は、家族全員が(もちろん二人だが)
『メンチカツ』
を注文。
三分ぐらいで揚げてくれるというので、店内の椅子に座って待つ。
と、バイクのツーリングとおぼしき五人くらいの団体が、すぐ近くでコロッケ等を食べている。
『‥‥‥出石に来たら、皿そばよりコロッケでしょ。‥‥』
こんな会話が聞こえてくる。
これは穏やかじゃない。
出石を代表し、その地名すら冠する名物を差し置いて、コロッケとは何事か。
出石の歴史に切っ先を向ける、挑戦的で軽率な一言ではないか。
そんな風に考えていた所に、メンチカツが出来ました、と呼ばれた。
次回に続く☆