サンタが殺しにやって来る ~サンタは全てお見通し~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

アメリカの人々にとっては、一年で一番重要なんじゃないかと言うくらいの一大イベントである「クリスマス」。これ迄の人生で、「クリスマス」と言うイベントと殆ど縁の無かった筆者には、その感覚は全くピンと来ないのであるが、一大イベントである以上、その日を舞台にした映画も数多く作られている。ホラー映画に於いても又然り。

 

本数はそれ程多い訳でも無いとは思うが、その中には「サンタクロース」モノと言って良い作品も存在する。代表格は『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』#1 である。内容は大体皆さんのご想像の通りだと思いますので省略します。動員数は良かったものの、PTAや教会からクレームが殺到した為、早々に打ち切りとなってしまった作品である。その後(恐らく)レンタルビデオブームの際に再注目され、パート5まで制作される人気シリーズとなった。

 

今回紹介する『サンタが殺しにやってくる』( 『 You Better Watch Out 』 1980年 アメリカ)は、この人気シリーズよりも先に制作された「サンタ」モノの異色作である。原題はクリスマスソングの定番「サンタが町にやってくる」の冒頭部分の歌詞である。邦題もそのもじりですね。

 

本作、英語の題名が三つ存在する。アメリカの独立系プロダクションが制作した作品には有り勝ちな事だったと思う。最初に限定的に公開した後、別の地域で上映する事になった際に題名が変わるとか、リバイバル公開の際にまた題名が変わるとかね。

 

本作も別題として『 Terror in Toyland 』が、(恐らく)リバイバル公開時とビデオ発売時に『 Christmas Evil 』(この題も「クリスマスイブ」のもじりですな)と言う題が付けられたと思われる。現在はこの『 Christmas Evil 』の題が一番通りが良いのかしら。まぁそうでしょう。ビデオが発売されてからの方が認知度が高いのじゃないだろうか?

 

ジョン・ウォーターズ監督が本作の事を絶賛している。敬愛するジョン・ウォーターズ先生と意見が合って嬉しいです。

 

まだ幼い子供の頃、母親と弟のフィリップと主人公ハリーとで、階段にうずくまり、そっと様子を窺っているのはサンタさんの姿である。勿論、父親が演じている訳だけど、純粋なハリーは本物と信じている。しかし、おませなフィリップに正体は父親だとばらされてしまう。

 

しかもその晩、階下に降りる途中でハリー少年が目撃したのは、母親と先程のサンタがいちゃついている姿だった。ここで父と母を殺めて精神病院にでも入れられたら、それこそ『ハロウィン』#2 のマイケル・マイヤーズなのだが、公開こそ『ハロウィン』の方が先だが、脚本が書かれたのはもっと前の事の様で、『ハロウィン』よりも『フランケンシュタイン』#3 を意識しているとか。

 

確かに、ハリーってピュアなんだよね。そんなピュアなハリーを、松明を手にした民衆が追い詰めるクライマックスは、正に『フランケンシュタイン』そのものである。

 

話を戻そう。サンタの存在を否定された事と、母親とサンタの情事を目撃した事が、ハリーにとってトラウマとなったのは間違い無いのだが、その結果が少し複雑な気がする。サンタを憎む様になったとか、頑なにサンタの存在を信じているとか言うよりも、「サンタは存在していなければならない」と信じている、と言う感じか。

 

後半、「子供達が必要としているのは、善悪を弁え導く人間だ」と言うハリーのセリフが在る。この倫理観に基づいてハリーは生きて来ていると思うのである。子供達には間違った事をして欲しくないのは当然として、自分自身も清く正しく美しく、とまでは言わないかも知れないが、手本になろうとして来たのではないだろうか?

 

弟は「兄は情緒不安定だ」と疎ましく思っていた。しかし、ハリーの学生時代はどうだったのかは描かれていないので不明だが、社会人となってからはおもちゃ工場で働き、しかも順調に出世して管理職になっている。ただ、プライベートでは、クリスマス関連のグッズで溢れている部屋でサンタのコスプレをして寝る様な変わり者である。

 

しかも、町の子供達をつぶさに観察し「良い子ノート」「悪い子ノート」なんて物をつけていたりする。しかもこのノート、普通のキャンパスノートの様な物ではなく、矢鱈と大判で豪華な装丁の立派なヤツ。何だか物凄いこだわり様である。流石にこれは変わり者では済まされない気がするな。自分をサンタだと思い込んでいる、あるいは自らが理想のサンタになろうとしている様な感じである。

 

ここら辺を観ると、この「悪い子ノート」に名前が載った子供達を、この後到頭精神を本格的に病んでしまったハリーが殺しまくる、などと言う鬼畜な展開になりそうだが、そうはならない。流石にそれでは公開が見送られると思われる。安心して下さい。この後、ハリーの手に掛かるのはイヤなヤツばかりです。「悪い子」筆頭の子は脅かされるけど。

 

おもちゃ作りにも誠実なハリーだが、工場での仕事は、プラスチック製のおもちゃの組み立てと言うライン作業である。ハリーが従業員達に対して「プライドを持って良い品質の物を作るんだ」みたいな事を言った所で、単純作業で日銭稼ぎをしている人達の心に響く事は無いのである。逆に言えば、ハリーは真面目におもちゃ愛を持って仕事をしていたから出世したのだろう。

 

幾ら言っても仕事の質が上がらない事に辟易していたハリー。自分の事を騙して仕事をさぼり小馬鹿にする部下(元同僚)、ハリー曰く「夢の無い」守銭奴の社長、その社長よりも酷い「心の無い」上層部の男。そんな周りの連中との関係にストレス溜まりまくりのハリーであった。

 

会社では、児童病院に自社製のおもちゃを寄付をすると言うキャンペーンを行う事となったが、全員にプレゼントが行き渡らなくても知ったこっちゃねぇ、と言うあくまでも売名行為が目的の偽善的な慈善キャンペーンだった。発案者は、勿論「心の無い」男である。遂に怒りが頂点に達したハリーは、工場のおもちゃを大量に持ち出し、自ら児童病院に寄付する事を決意する。

 

サンタの衣装を自作、車に橇の絵を描いてサンタ仕様にし、白髪の付けヒゲを接着剤で接着。ヒゲが取れない事を確認した事で「俺がサンタだ」と確信を持つのであった。

 

ここでプレゼントを届けて終われば窃盗だけで済んだのだが、やっぱり腹立ちは収まらない。クリスマスの深夜ミサに参加している守銭奴社長と「心の無い」男の事を思い出し、教会の前で待ち伏せ。この時点では「何か言ってやらなきゃ気が済まない」くらいの気持ちだったのかも知れない。

 

ところが、肝心の二人と会う前に、ミサを終えて教会から出て来た一団の先頭集団に絡まれてしまうのである。幾ら教会でミサに参加していようが、その程度の人間性ではねぇ。全く形ばかりですな。既にかなり頭に血が上っていたハリーは、この連中を殺してしまうのである。衆人環視の中で。

 

サンタの恰好をした人達が次々と警察に引っ張られる中、上手い具合に逃げ延びていたハリーだったが、遂に犯人とバレ、追われる事となるのだが、ラストでハリーの身に起こる出来事は、かなり予想外である。ファンタジーです。この作品、このオチがビデオ発売当初から取り沙汰されていて、その事で密かに人気作となっていたのだが、本稿では詳細は避けます。気になる方は是非ご自身で確認してみて下さい。

 

オチがファンタジーと先程書きましたが、本作、大体が「ホラー映画」の範疇に入れて良いのだろうか?と思いました。確かに人が殺される。それ程ハッキリと描写される訳では無いが、結構凄惨な殺され方だったりする。でも、全体的に見たら、そんなにホラー映画していないと思うんですけど。

 

主人公はあくまでも殺人を犯す側のハリーである。別に誰か襲われる側の主要人物が居て、ハリーと攻防をする訳でも無いのである。しかもハリーは出ずっぱりなので、その心情も全てとは言わないが、それなりに理解も出来る。ちょっと変わり者だが、純真で倫理観も有り、真面目に生きて来たハリー。不誠実な会社の上司や部下、自分を理解してくれない弟に腹を立て、遂に一線を越えてしまうのだが、ハリーの心情が理解出来る、と言う人も多いのではあるまいか?少なくとも筆者は同調出来ます。真面目な人が馬鹿をみて、ずる賢いヤツが得をする、そう言うのはつくづく遣り切れないなぁと思います。

 

本作の監督、脚本はルイス・ジャクソンと言う人物。本作以外には『 The Transformation: A Sandwich of Nightmares 』#4 と言う作品が在るが、極一部の地域で限定的に公開され、現在はフィルムの所在が不明で観る事は叶わないとか。本作以降は業界から足を洗ったんだろう。一切関わりが無さそうである。まぁ、監督脚本を手掛けた二本が殆んどまともに公開されなかったのなら、それも仕方が無いのだろう。筆者としてはもうちょっと監督作品を観てみたかったけどね。

 

アメリカでは、ジョン・ウォーターズ監督のオーディオ・コメンタリーを収録した、4Kリマスターのブルーレイが発売されていた。日本でも発売して欲しいです。

 

日々、色々とフラストレーションが溜まる事も有るとは思いますが、たまにはそう言う事をパ―っと忘れる日も作りたいですね。

 

メリー・クリスマス。そして2024年が良い年であります様に。

 

#1 (『 Silent Night, Deadly Night 』 1984年 アメリカ )

#2 (『 Halloween 』1978年 アメリカ )

#3  (『 Frankenstein 』 1931年 アメリカ )

#4  ( 1974年 アメリカ )