ラブ IN ニューヨーク ~どん詰まりの道だって、いつか開ける時も来るはずさ~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

筆者、実は、風変わりな物だったり、珍しい物だったり、余り一般的とは言えない物に対して興味を惹かれるタチなんですよ。だからと言って、人気の有る評価の高い物を嫌って、アンチな発言をする、何て事は無いです。そこは素直に良い物は良い、好きな物は好きって言いますよ。
 

と、言う事で今回紹介する映画を監督したのは、ロン・ハワード。大メジャー監督ですよ。監督作としては『コクーン』『ウィロー』『バックドラフト』『アポロ13』『身代金』『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ等々。ほんのチョット挙げただけでもこれですよ。プロデューサーとしても、テレビに映画にと大活躍。近年も、監督業、プロデューサー業を精力的にこなしている。

 

両親共に俳優と言う家に生まれたロン・ハワード。1959年、5歳の時にユル・ブリンナー主演の『旅』に子役として出演。その後は主にテレビへの出演を重ね、1973年にジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』に出演。若手人気俳優の仲間入りを果たす。しかし、役者よりも監督業に興味が有った様で、1972年に入学したカリフォルニア大学映画学科では、映画制作を学んでいた。1977年、ロジャー・コーマン制作の『バニシング IN TURBO 』で劇場用映画監督デヴュー。三本のテレビ作品を監督した後、劇場用作品第2作目として発表したのが、今回紹介する『ラブ IN ニューヨーク』(『 Night Shift 』 1982年 アメリカ )であります。
 

物語は、真面目だけどちょっと気の弱いチャックと、職場の同僚で、イイ奴なんだけど騒々しい、ビルと言う二人の青年が、夜勤(原題の『 Night Shift 』とは夜勤の事)の間を利用してピンプ稼業を始めると、言う物。
 

「ピンプ」とは何ぞや?と、言う事で説明をば。英語で「pimp」と言う言葉は、日本語に訳すと「ヒモ」「ポン引き」の意味になる。なるんだけど、ちょっと日本語でのイメージと違うんだよなぁ。日本語で「ヒモ」って言うと、単に女の稼ぎで暮らしてる男のイメージだし、「ポン引き」も街で道行く男達に声を掛けてるイメージ(厳密に言うと、それは「客引き」になる訳だが)。「ピンプ」って結構大人数の娼婦を抱えてて、ちょっと組織的な感じなんだよね。勿論、更にその上に元締めみたいのがいたりするんだけど。そして、何と言ってもゴージャス。
 

マックス・ジュリアン主演の『 The Mack 』(1973年 日本未公開)、ロスコ―・オーマン主演の『 Willie Dynamite 』(1974年 日本未公開)と言う、ピンプを主役にした二本のブラックスプロイテーション映画(主に黒人層を観客に当て込んだ娯楽映画群の事)が有るんだけど、この作品の中で見せる(魅せる)主役二人のピンプファッションのド派手な事ったら。特にウィリー・ダイナマイトなんて、原色のシャツにスーツ、その上に羽織るゴージャスな毛皮のコートに、お揃いの帽子。こう言うのはヤッパ黒人じゃないと似合わないよなぁ、とつくづく思うわ。
 

因みに、この「pimp」って英単語、最近では「女たらし」の意味で使われたり、黒人達の間では「成金」だったり「勝ち組」みたいな連中を小馬鹿にする様な感じで使われたり、「クール」の替わりの形容詞として使われたりするらしい。意味が変わって来ていると言う事は、1970年代の様な「ピンプ」稼業は、既に無くなっていると考えて良いのかも知れない。1980年代初頭の本作でも、冒頭で、上納金を収めなかった為に殺されるピンプは、ド派手なファッションでは無かったしね。段々と様変わりしていっている途中だったのかも知れない。

 

チャックは元エリート証券マン。ウォール街での神経をすり減らす様な仕事に疲れ果て、ニューヨーク市死体公示所に転職して六年が過ぎた。死体で運ばれて来たピンプの身元確認に連れて来られた娼婦に「どこかで会った事無い?」なんて声を掛けられる。知り合う切っ掛けを作る為のお決まりの文句だ。その時はそう思っていた。

 

或る日、上司から唐突に勤務時間を夜勤に変えられてしまう。上司のボンクラな甥っ子を入所させる為である。上司に強く抗議も出来ず、新入りの仕事ぶりが酷くても文句も言えない、気弱なチャック。新たな仕事上の相方はビルと言う青年だ。自称アイディアマンのビルは、思い付いた事を常に小型のカセットレコーダーに録音している様な男である。のべつ幕なし喋っている。

 

チャックには婚約者がいるが、ちょっとしっくりいっていない。そこに持って来て、ビルがやかましい。遂にブチ切れてしまうが、それが功を奏した。地方から出て来たばかりで、ビルも不安を抱えていたのである。お互いの事を話し、打ち解ける事が出来た二人だった。
 

以前、ピンプの身元確認に来た娼婦ベリンダが、偶然にも自分のアパートの隣室の住人だと知ったチャック。「どこかで会った」のは本当だったのである。アパートのエレベーターで、客に殴られ怪我をしているベリンダと遭遇したチャックは、ピンプが居ないと仕事をしていて危険な目に遭ったり、金を払って貰えない事が有るのを知る。
 

人の好いチャックは、何とか出来ないだろうかとビルに相談。アイディアマンのビルは、夜勤を利用しての売春斡旋業を始める事を提案。自分達がピンプをやろうと言うのだ。立派な車も有るしね。死体引き取り用の霊柩車だけど。

 

婚約者やその両親との関係が今一つなチャックは、隣人であり、今や仕事上の繋がりも有るベリンダとお互いに惹かれ合って行くのだったが、実はその身に危険が迫っていたのである。元のピンプが殺されたのは上納金を収めていなかったからで、そこら辺をクリアしないままではマズイだろうよ。

 

と、言う事で、彼らはこの先無事に済むのか?サンドイッチショップで常に注文を間違えられても、文句一つ言えない気弱なチャック。自分自身の人生をビシッと決める事が出来るのであろうか?と、こんな感じの内容です。

 

ロン・ハワードってデヴュー作の『バニシング IN TURBO 』も、カークラッシュを主体としたカーアクション映画みたいに売られたけども、内容は次期州知事候補の娘としがない一青年の恋愛物、本作に次いで監督した『スプラッシュ』は人魚と人間の青年の恋愛物と、恋愛コメディ三連発でキャリアをスタートさせているのである。恐らく、本人が一番好きな題材なのだと思うし、実際に得意なジャンルなのではないだろうか。ロン・ハワードのこの手の作品は、ホワホワっと良い気分にさせてくれます。

 

ビル役を演じたのはマイケル・キートン。本作で劇場用映画への本格的なデヴューを飾り、続く『ミスター・マム』で主役を演じ好評を博す。その後の活躍はご存じの通り。

 

それと、駆け出しの頃のケビン・コスナーが、ほんのチョイ役で出演しています。本作を観る事が有ったら探してみて下さい。死体公示所に居ます。

 

主人公チャックは、真面目で、頭も性格も良いのに、生き方が不器用で損をして来たのではないだろうか。これまで知り合う事の無かったタイプのビルやベリンダとの出会いで、行き詰った人生に、違った新たな道を見つける事が出来たのだろう。

 

真面目にやっているのに割に合わない目に遭う事が多いと感じるあなた、きっといつか報われますよ。筆者はそう信じて生きています。