犬に何かを教えるとき、あるいは何かをやめさせるとき、一般的にはごほうびにおやつを使う方法が提示されています。

たとえば、オスワリを教える場合、犬におやつを見せて座るように誘導し、「オスワリ」などと声をかけて座ったらおやつをあげるというものです。この方法では、犬は座るとおやつをもらえるのでわりあいすぐにオスワリするようになります。教える飼い主としてはとても簡単でラクな方法に思えます。

でも、この教え方にはいろいろな落とし穴があります。たとえば、おやつを持っているときしか座ってくれない、すぐに立ち上がる、などです。これでは飼い主さんは常におやつを携帯しなければならなくなってしまいます。

オスワリは本来、犬を落ち着かせたいときにさせるといい動作なのですが、おやつを携帯していなかったために愛犬を落ち着かせることができないのでは、オスワリを教えた意味がありません。

犬が離れた場所にいるときに自分の元に来させる呼び戻し(指示語は「オイデ」や「コイ」など)の場合、おやつがないと呼び戻せないとしたらどうでしょう。街中や公園などでは犬を危険な目にあわせたり、他人に迷惑をかけたりしかねません。

このような経験から、おやつが手放せなくなった飼い主さんもいます。小さなことのようでもどこに行くにもおやつが手放せないとなると、これはけっこうなストレスになってしまいます。一方、犬のほうもおやつ漬けで肥満になる傾向があります。

 

おやつをごほうびに使う弊害はこれだけではありません。最も大きな弊害は犬がだんだんとおやつにしか興味がなくなり、そのうちに飼い主さんの目を見なくなってしまうということです。

犬が飼い主さんの目を見なくなってしまうということは、飼い主さんに対してあまり期待していないということかもしれません。あるいは犬から見ると、飼い主さんはいうことを聞けばおやつをくれる都合のいい人と映っているかもしれません。

これは犬と信頼関係を結ぶということからは大きく外れています。

保護犬を迎えた飼い主さんの中には、食べ物に不自由していたかもしれないと欲しがるものは何でも与えてしまう人がいるかもしれません。気持ちはわかりますが、先に述べたように、結果的には愛犬の健康を損なうことになってしまいますし、信頼関係を築くうえでもよくないでしょう。

愛犬の健康を考えるなら、体質に合ったフードを適量食べさせ、おやつは何かのごほうびではなくおやつとしてほどほどに。これが一番です。

 

なお、アイコンタクトをとるためにおやつを使う方法もよく聞きますが、アイコンタクトとは本来、犬が飼い主さんに対して「これでいい?」「どうですか?」などという気持ちで見つめる行為であって、おやつを使って無理やりとるものではありません。