世界と日本に違い

・まとめると生産性を上げるための方法には、分子の最大化と分母の最小化というふたつの方法があり、さらにそれぞれを達成するための手段として、イノベーション(革新)とインプルーブメント(改善)のふたつがあるということです。

 

<生産性を上げる4つの方法>

(1) 改善=インプルーブメントにより、投入資源を小さくする

(2) 革新=イノベーションにより、投入資源を小さくする

(3) 改善=インプルーブメントにより、成果を大きくする

(4) 革新=イノベーションにより、成果を大きくする

 

 しかし日本では、製造現場における改善運動から生産性という概念が普及したため、「生産性を上げる手段=改善的な手法によるコスト削減」という感覚が定着してしまっています。

 このため企画部門や開発部門など「自由に発想することが重要な仕事に従事している」(と自負している)人たちは、生産性の向上が自分たちの仕事にも極めて重要であると、長らく認識できないままになってしまっていました。

 コスト削減だけでなく成果の価値を上げることも、そして、改善的な手法だけでなくイノベーティブな発想や技術を駆使して大幅な生産性向上を達成することも、同様に重要です。これら4つの方法がまったく関係しない部門や業務=生産性の向上が不要な仕事など、どこにも存在しないでしょう。(p43)


Time for innovation

・最初に必要となるのは、「イノベーションのための時間的な余裕」です。生産性が軽視される組織では、社員は長時間の残業を強いられているなどオペレーショナルな業務(定型的な作業)に忙殺され、新しいアイデアや試みに投資する時間や資金、そして気持ちの余裕を充分に確保できません。特に事業の拡大期にはオペレーション業務が急増するため、意識的に生産性の向上に取り組まない限り、次の飛躍のための投資時間は足りなくなりがちです。

 図表7のA社の生産性が上がり、オペレーション業務をより短時間で終わらせられるようになれば、イノベーションのために投資可能な時間が増加し、B社のようになることができます。一方、生産性がさらに低いC社にいたっては、規定の労働時間内ではオペレーション業務が終わらず、社員が付加価値の低い仕事のために残業しています。

 このA、B、Cの三社を比べたとき、いったいどの組織が一番「イノベーションを生み出しやすい組織」だと思われるでしょうか?

 どう考えてもC社より、生産性の高いB社で働く方がイノベーションを生み出す可能性が高そうですよね。

 人は通常、「まず絶対に終わらせなければならない仕事を先に終わらせよう」と考えます。大量のオペレーショナルな作業を放置して、「今日一日、イノベーティブなアイデアについて考えていました!」などと言える人はいないし、もしいたとしても、組織から受け入れられません。

 「イノベーションの追求と生産性の向上は両立しない」という感上げ方は、D社のように、「イノベーション自体を生み出すプロセスには、生産性を持ち込まない方がよい」といおう話しであって、「生産性という概念をいっさい無視すべし」という話しではないのです。

 同時に図表7からは、「生産性を意識しすぎると職場がギスギスする」とか、「効率を追い求めると仕事が楽しくなくなる」といったまことしやかな言説も決して正しいものではないとわかります。

 働く人が疲弊するのは、付加価値の低い、「自分がこれをやることにどんな意味があるのか?」と疑問に思えるようなオペレーショナルな作業を延々と続けさせられるときです。そしてギスギスするのは、そんな人ばかりが脇目も振らず、時間に追われ焦って働いている職場の方でしょう。

 そんな仕事はやめるなり機械化するなり、どんどん効率化することによって(=生産性を上げることによって)余裕時間を生み出し、それらの時間をワークライフバランスの改善やイノベーションのために使えれば、職場の雰囲気のよほど明るくなるし、社員やる気も引き出せます。

 このように、「通常のオペレーション業務の生産性を向上→余裕時間を生み出す→その時間をイノベーションのために投資する→イノベーションにより、さらに大幅な生産性向上につあんげる」ためにも、まずは組織全体に生産性を重視した働き方を定着させることが必要となるのです(図表8)。(p51)

 

{3F80C976-1BC2-4E3F-BFD5-7789C5624F76}

 

{BBDDE372-139E-4DC8-A623-12201D329331}

 

採用分野におけるイノベーション

・マッキンゼーの採用マネージャーだった頃、私も採用の生産性を上げ続けることを毎年のように求められてきました。一年くらいなら、適性検査の採点方法を自動化するとか、履歴書審査の方法を変えるなど、細かい改善でも生産性は上げられます。しかし長期間にわたって生産性を上げ続けよと言われたら、改善だけ、コスト削減側だけのアプローチでは目標が達せできません

 そのような状況に追い込まれると、誰であれ「何か生産性を大幅に上げられる革新的な方法はないか?」と考え始めます。ビジネスイノベーションとは、このように恒常的に生産性の向上を求められる環境において、担当者が「改善的な手法はすべて試みた。他に何か画期的な方法はないか?」と考えるところから始まるのです。(p60)


残業規制も量のコントロールにすぎない

・大事なことは、残業を減らすことでも残業代を減らすことでもありません。目指すべきは「仕事の生産性を上げること」であり、その結果として残業時間、というより労働時間そのものが減るのが目指すべき姿なのです。

 加えて残業時間を減らそうという運動は、残業が目標時間まで減ったところでゴールに達してしまうのに対し、生産性向上の試みはエンドレスに続けられます。だから残業を減らすことだけを考える企業と、生産性を高めようと継続的な努力をする企業では、長期的に到達できるゴールの高さもまったく違ってきます。

 このように会議であれ残業であれ、必要なのは量のコントロールではなく、その質をいかに高めるかという発想です。(p72)

 

 

成長とは「生産性が上がる」こと

・成長意欲の高い人の中には、日中はめいっぱい仕事をし、家に帰ってから新しいことを勉強するために時間を投入する人もいます。私たちはそういう人を「向学心があり成長意欲が高い」と賞賛します。

 たしかに目の前の仕事をこなすのに手いっぱいで、新たな勉強が何もできていない人よりはマシでしょう。しかしこれは、家に帰ったら仕事も育児もまったく手伝わない、昭和型の男性社員にしか許されない成長方法です。家では家事も育児も介護もしない、コミュニティ活動もボランティア活動もしない、趣味もない、仕事人間のための成長法なのです。

 こういうスタイルしか存在しないと、育児や介護に時間をかける必要が出てきた時点で、まったく成長できなくなってしまいます。もしくは、「今は仕事もしっかりこなし、自分にも投資したい時期だから、育児休暇などとてもとれない」という男性がいつまでたっても減りません。

 そうではなく、仕事の生産性を上げ、目の前の仕事だけでなく今後の成長のための投資や新しいチャレンジもすべて労働時間内でやりきれるようになる、そうなることを目指す――そういう意識に変えていかないと、プロフェッショナルとしての成長には、常に個人生活の犠牲がセットでついてきてしまいます。(p78)


ブラックボックス化しない

・チーム内の人手に対して仕事が多すぎるとき、最も避けるべきは、安易にアルバイトや派遣社員を雇い、仕事をそれら外部要員にまかせてしまうことです。

 これは、投入労働力を増やすという意味では、残業をして仕事を終わらせるのと同じです。社員の残業量が規制されているから、もしくは、正社員が残業をすると人件費が高いから、社員以外の時間を投入しているだけです。

 しかも外部要員に付加価値の低い仕事を任せてしまうと、その仕事のやり方を改善しよう(生産性を上げよう)というインセンティブが組織から消えてしまいます。そして次第に誰も、それらが本来どのくらいの時間をかけてよい仕事なのか、考えなくなってしまうのです。

 そもそも、正社員の人件費ではやる意味がないが、派遣社員の時給なら続けてもいいという仕事に高付加価値の仕事はありません。そうであれば、まず考えるべきは「この仕事はなくせないのか?」ということであり、次が「より効率的な方法はないか?自動化できないのか?」ということです。

 ごく短期の繁忙期に外部要員の力を借りるのは問題ありません。でも、恒常的に忙しい部門に必要なのは、派遣社員を雇うことではなく、仕事自体の根本的な見直しです。

 それでも多忙さが解決できないというなら、会社として正社員を増やすべきです。「正社員の給与でやる価値はないが、派遣社員の時給ならやる価値がある」といった付加価値の低い仕事を大量に抱えていると、組織全体としての生産性が下がってしまいます。

 IT投資に関しても同様に、まずは、仕事自体の必要性の判断や、プロセスの見直しが必要です。(SAPのような)業務系システムの導入の際、従来のプロセスをそのまま機械化しようとするととめどないカスタマイズを行い、結果として「多額の予算をかけてシステムを導入したのに、従来の非効率なプロセスが機械化されただけ」に終わってしまったというのも、よく聞く失敗例です。

 生産性向上というとすぐに話題になるIT化ですが、どんな仕事もまずは、「そもそもどれほどの価値を生んでいる仕事なのか」ということを吟味したうえで自動化が必要です。それなしに「とりあえずIT化」を進めても、派遣社員や新人に仕事を回すのと同様、仕事をブラックボックス化し、問題を先送りするだけに終わってしまいます。

 派遣社員を雇ったりIT投資をする前には必ず、

  -本当に残す価値のある仕事なのか? やめられないのか?

  -やり方を抜本的に変えられないか?

  -外注化やIT投資で、生産性はどれほど上がるのか?』それは投資に見合うのか?

などを確認するようルール化してしまうだけでも、無駄な仕事を減らすことに役立つことでしょう。(p144)

 

 

ブランク資料を作る(マッキンゼー流 資料の作り方)

・情報収集前に具体的なアウトプットイメージをもつために作られるのが、ブランク資料です。一般には聞き慣れない言葉かもしれませんが、コンサルティングファームではブランク資料は作らずに情報収集を始めることは不可能(もしくは御法度)とされています。

 通常、上司や顧客から資料作成を依頼されたスタッフは、まずブランク資料を作り、それを上司や顧客に見せてアウトプットイメージを共有してから情報収集や分析にとりかかります。 (p190)

 

・できあがったブランク資料は上司や顧客と共有し、「この資料のブランク部分に具体的な数字や情報が入れば、我が社は意思決定ができますよね?」と確認します。つまり、最初にブランク資料を作ることで意思決定への覚悟を問うことができ、後から「これだけの情報では意思決定はできない。もっと情報が必要だ」と、むやみに判断を引き延ばすことも不可能になるし、「意思決定をするかどうかはわからないが、とりあえず勉強したいので資料を集めてほしい」という生産性の低い仕事を減らす効果も期待できます。

 また、もし事前にブランク資料を見せられた上司や顧客から「これだけでは意思決定はできない」と言われた場合にも、どんな情報が足りないのかを口頭説明ではなくブランク資料の項目として提示してもらえるようになるため、何日も作業した後で「欲しかったのはこういう資料ではなかった」というすれ違いが起こることもありません。

 このようにブランク資料を使えば、資料作成だけでなく意思決定の生産性をも大幅に向上することができるのです。(p195)


達成目標を明確にする(マッキンゼー流 会議の進め方)

・よくある「会議の議題一覧」と、「会議の達成目標」の違いは次のような感じです。

 (中略)

 最初に示した議題リストには「話し合う分野」は書かれていますが、この会議の時間内に何を達成すべきなのかは書かれていません。一方、後者の達成目的リストでは、会議参加者がこの時間内に何を決めなければならないのか、情報として共有する必要のある項目は何なのか、などがすべて書かれています。こうして会議の達成目標を具体的に明記するだけでも、会議の生産性は大幅に上がります。

 

 ちなみに、大半の会議の達成目標は次の5つのどれかです。

 (1) 決断すること

 (2) 洗い出しすること(リストを作ること)

 (3) 情報共有すること

 (4) 合意すること=説得すること=納得してもらうこと

 (5) 段取りや役割分担など、ネクストステップを決めること

 

 ですから、この5つの目的別に最も生産性が高いと思われる方法を類型化しておけば、会議の生産性はさらに引き上げられます。(p209)

 

 

『イシューからはじめよ』
 

・マッキンゼーに同期入社したコンサルタントのひとりに、現在ヤフーでCSO(Chief Strategy Officer)を務める安宅和人氏がいます。彼が2010年に出した『いしゅーからはじめよ』という書籍のタイトルは、問題解決において最も重要なポイントを、ずばりと指摘しています。

 それは、「何が問題なのか」という起点の正しい理解が、何より重要だということです。解くべき課題=イシューを取り違えると、どれほど詳細に問題を分解し、膨大な情報収集や多岐にわたる分析を行っても、正しい解にはたどり着けません。(p231)