フォーカシング・イリュージョン

・人間の愚かな特性をうまい言葉で言い当てたのが、プリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞受賞者でもあるダニエル・カーネマンです。

 その言葉とは「フォーカシング・イリュージョン」。

 フォーカシングは焦点をあわせること。イリュージョンは幻想。だから、フォーカシング・イリュージョンとは、間違ったところに焦点を当ててしまうという意味です。つまり、、「人は所得などの特定の価値を得ることが必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、それらを過大評価してしまう傾向がある」ということ。「目指す方向が間違ってるよ」っです。

 カーネマンらは、「感情的幸福」は年収75,000ドルまでは収入に比例して増大するのに対し、75,000ドルを超えると比例しなくなる、という研究結果を得ています。(p063)


快楽のランニングマシン

・フォーカシング・イリュージョンまみれの現代にあって、どんな幸せを目指すことがフォーカシング・イリュージョンで、どんな幸せが確かな幸せなのでしょうか。

 イギリスのニューカッスル大学の心理学者ダニエル・ネトルが、著書『目からウロコの幸福学』の中で、興味深い視点を提示しています。

「地位財」と「非地位財」という視点です。

 地位財・非地位財という言葉は、経済学者のロバート・フランクが作った言葉です。

 地位はポジション、財はグッズ。ポジションとは、自分が他人と比べてどのようなポジションにいるかという意味でのぽいションです。財(グッズ)は、必ずしも、預金、株、土地のように、お金に換算されるモノのみではありません。社会的地位、健康、自由、愛情のような形のないコトも含みます。

 地位財は所得、社会的地位、物的財のように、周囲と比較できるものです。一方、非地位財とは、他人がもっているかどうかは関係なく喜びが得られるもの。

 そして、地位財による幸福は長続きしないのに対し、非地位財による幸福は長続きする、という重要な特徴があります。

「快楽のランニングマシン」というたとえがあります。収入が増えるとその時はうれしいですが、すぐにもっと多く欲しくなります。人はよりよい収入を求めて常にランニングマシンの上を走り続けてしまいますが、実はどこまで走ってもゴールにはたどり着かない。まさに、フォーカシング・イリュージョンですね。ひとはついつい、幸福の持続性が低い地位財を目指してしまいがちなのです。(p071)

 なぜなのでしょうか。フランクはせつめいします。

 人間は、自然淘汰に勝ち残って進化してきた。よって、子孫を残すためによりゆうこうなことを目指すようにできている。子孫を残すために重要なことは、競争に打ち勝つことだ。人間は、競争に勝つとうれしいようにできている。だから、他人との比較優位に立てる、地位財の獲得を目指してしまうのだ、と。

 一方、非地位財は、個人の安心・安産な生活のために重要です。進化や生存競争のためではない。もちろん、安心・安全な生活をしている方が異性にもてて、子孫獲得につながることもあるでしょう。しかし、のんびりと安心・安全に生きている人よりも、今の敵と戦って伴侶獲得競争に打ち勝つ力強い異性の方が好まれます。

 つまり、地位財を得るというのは、目の前にぶら下がった具体的な餌に飛びつくことです。一方、非地位財は、もっと長期的で形にならない抽象的なもの。今すぐ具体的に何かが得られるものではない。そして人間は、具体的な目の前の餌を優先してしまうようにできている。

 これがフランクの説明です。


地位財と非地位財のバランスを取れ

・私は、ネトル、フランク、ネッシィとは少し違う考えです。

 人間は、本来、短期的な幸福をもたらす地位財と、長期的幸福をもたらす非地位財を、どちらもバランスよく求めるようにできているのではないでしょうか。両者は、車の両輪のようなものだと思うのです。

 両者は、「変化」と「安定」といってもいいし、「革新」と「保守」といってもいい。「爽快感」と「安心感」といってもいい。

 で、もともと、人間社会は、両者のバランスを取っていた。「競争」と「協調」です。(p074)

 なぜなら、競争が子孫獲得に有利に働くこともあるでしょうが、皆で協力して安心・安全な社会を作り、ともに子孫を育てる方が、子孫獲得のために有利な場合もあるからです。人間が他の生物にも増して利他生を持つことはよく知られていますよね。他人を蹴落として勝ち残るのみならず、利他的にふるまって共存共栄を図ることも、生物学的な共生と同様、有効だと思うのです。だから、人間が地位財のみを求めるように進化した、というのは言い過ぎで、現代文明が人をそうさせているというのが私の意見です。

 


ピーク・エンドの法則

・フォーカシング・イリュージョンでも有名なカーネマンがみつけた「ピーク・エンドの法則」です。「ピーク・エンドの法則」とは、苦痛・快楽の表亜kはその活動の「ピーク(絶頂)」と「終わったときの程度」で決まるのであって、「どのくらいの期間続いたか」は無視されるというものです。(p084)

 

 

幸せは間接的にやってくる

・つまり、幸せになるための単純な処方箋はない。一見それとは関係ない何かをすることによって、幸せになれる。何か、幸せになるための直接的なアクションというものはない。すべて間接的である。一見、幸せとは違う別のアクションをした結果として、まるで突然のご褒美のように、幸せはやってくる。そういう構造になっているのです。(p092)


幸せの四つ葉のクローバー(p104)

●第1因子 「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)

 ・コンピテンス

 ・社会の要請

 ・個人的成長

 ・自己実現

 

●第2因子 「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)

 ・人を喜ばせる

 ・愛情

 ・感謝

 ・親切

 

●第3因子 「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)

 ・楽観性

 ・気持ちの切り替え

 ・積極的な他者関係

 ・自己受容

 

●第4因子 「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)

 ・社会的比較志向のなさ(私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない)

 ・制約の知覚のなさ(私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない)

 ・自己概念の明確傾向

 ・最大効果の追求

 

『魅力の正体』

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自信を高めるワーク

・誰も見ていないところで「おおきなゴリラ」(p93)
 お手洗いや誰もいない会議室などで、両手を大きく広げます。朝、目が覚めて大きく身体を伸ばして深呼吸をする時のように、そのまま両手を思いっきり頭の上に上げて、そこから大きな弧を描くつもりで、広い空間を示すようにしながらゆっくり下ろします。たったこれだけのシンプルなポーズですが、まわりの人からパワフルな人として見られるだけでなく、自分自身がパワフルになったように感じられます。

 これを数回、できるだけゆっくりとしたスピードで行います。この両手を高く上げる「大きなゴリラ」と呼ばれるポーズは「力を示す」といわれており、人類が太古から無意識に自信があるときに行ってきたポーズです。(中略)

 プレゼンの前や大切な人と会う前といった大事なシーンに向かう前に、このポーズをとると、堂々とふるまうことができるようになります。

 自信がわき、ストレス耐性が高まり、他者からも魅力的だと見られるということがわかっています。
 

 

 

型破りな戦略(p219)

・紹介した数多くの体験談から、一般的で重要な指針がいくつかはっきり見えてきた。ここではその指針を、「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」としてまとめた。行動から考える、可能性を気軽に試す、矛盾を残す、小さな段階を積み重ねて大きく変わる、新しい役割を試みる、なりたいと思う人を見つける、きっかけを待つな、ときには距離をおいて考えるがあまり長い時間はかけない、チャンスの扉をつかむ、である。

 

型破りな戦略1 行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
 まずは行動を変える。違う道を試してみる。行動を起こした後フィードバックを活かして、考えや気持ちやほしいものをはっきりさせる。新しいキャリアへの道を分析したり、計画を立てたりしないほうがいい。自己分析の入門書が提唱する従来の戦略やこれまでのキャリア相談は、自分の内面に目を向けることから始めるようにとすすめるだろう。しかし、まずは一歩を踏みだそう。各段階で学んだことに注目し、つぎの段階へ進むためにそれを必ず役立てる。

 

型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのをやめる。「将来の自分像」を数多く考え出し、そのなかで試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。
 じっくり考えることは大切だが、試さないための言い訳として利用されがちだ。自分はどんな人間かと考えるより、ほしいと思っているものが本当にほしいかどうかを検討するほうが重要になる。行動すれば自分の言動から自分を理解する機会が得られるし、学ぶたびに予想を修正できる。行動しないと逆に、自分が見えなくなってしまう。

 

型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。執着したり手放したりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論をだすよりは、矛盾を残しておいたほうがいい。
 キャリア・チェンジを実践するまでの何年かは、苦痛や不安、混乱、疑念をどうしてもともなう。過渡期でかなりつらいことの1つは、目標をすぐに達成できないと分かってもあきらめないことだ。残念なことに、その時点では「質流れ」のほかに選択肢はない。同じ場所にとどまるか、理想とは違う次の仕事に就いて、変化を見送るしかない。急いで結論をださないように気をつけたほうがいい。先方から唐突に転職を打診された場合にはとりわけ注意する。新しいものへ移行するには時間がかかるものだ。近道をしようとすると、結局は時間がもっと必要になることが多い。

 

型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。それによって、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。曲がりくねった道を受け入れることだ。
 小さな一歩が大きな変化を導く。最初から正しい「答え」を見つけようとして、時間や気力やお金をむだにしないほうがいい。それを押せば劇的な効果が得られる「レバー」はないのだ。はじめに試したことですぐに変化を遂げる人はほとんどいないから、直線的に進もうと考えない方がいい。学んだことを次に活かしながら、おそらく何度か円を描くように進ことになる。仕事以外に人生のどんな部分で変化が必要だろうかと自問しはじめたとき、深く学びつつあることに気づくはずだ。

 

型破りな戦略5 まず試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論をだすまえに試すことができる。
 最初からこれだと決めつけるのではなく、副業や一時的に試す方法を考えてみる。本気で追求するが、決断はあとにする。過渡期でも変わらない価値観や好みは本人の個性を形成するものなので、それらを徐々に確認していく。必ずいくつかの選択肢を試して、経験を比較してから選ぶ対象を絞るようにする。

 

型破りな戦略6 人間関係を変える。仕事以外にも目を向けたほうがいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけ出す。だが、そうした人をこれまでの人間関係から探そうと考えてはいけない。
 いまもっているネットワークの外にアンテナを突きだすようにする。めざしたいものを気づかせてくれる人、別の働き方や生活様式の実例を見せてくれる人など、手本になる人を見つける。単に仕事だけを変えたい人は少なく、こう願う人がほとんどだ。好感をもてて尊敬できる人、大切な時間をともに楽しめる人と働きたい。

 

型破りな戦略7 きっかけを待っていてはいけない。真実があきらかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日のできごとのなかに、いま経験している変化の意味を見いだすようにする。人に自分の「物語」を実際に何度も話してみる。時間がたつにつれ、物語は説得力を増していく。
 キャリアを大幅に方向転換するには3年から5年かかる。大きな「転機」は、もしあればの話だが、後半に訪れることが多い。過渡期の間、触発されるできごとを待つのではなく、すべてのものをきっかけに利用する。大切なのは結果そのものより、結果から得たものだ。日々のなかで、物語を修正するか少なくとも再考するきっかけになりそうなことがあれば、なんでも活用していく。履歴書や添え状を送付先に合わせて変更するように、自分の物語をいろいろな相手にさまざまな形で話してみる。好意的な聞き手だけでなく、疑い深い人にも聞いてもらう。過渡期の間に物語が変わっても気にしないことだ。

 

型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
 煮詰まって考えが浮かばなくなったら、変化の動機や過程ばかりを思いつめている状態から離れてみよう。一日郊外に出かけるといった短い休息でも、「習慣の目隠し」を外すことができる。一方で、この段階にあまり長くいないほうがいい。長くとどまると元に戻るのが難しくなる。自分の可能性を見つけるには、実際の社会に前向きに参加し、現実から影響を受けていくしかない。

 

型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。変化は急激に始まるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機をのがさない。
 チャンスの扉は開いたり閉じたりする。大きな変化にとても受容的な時期もあるし、計画から徐々に逸れるのさえ耐えがたい時期もある。たとえば、講座を修了した直後や新しい職務を引き受けたとき、節目となる誕生日など、絶好の機会はすべて一歩を踏み出すために利用する。自分が変わったこと、そしてさらに変わるつもりでいることをほかの人に伝える。これまでの習慣がもたらす隠れた影響力に注意する。新旧のアイデンティティーの間という中途半端な状態に耐え、問いを繰り返す。過渡期にとどまるための時間と空間を自分に与えれば、その後きっと前進できる。一方で、答えのでない問いに足を取られないように気をつける。一時的な方針しか見えないとしても前進をつづけたほうがいい。