会社を辞めないという選択 会社員として戦略的に生きていく/日経BP社

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会社を”使う”という考え方

・一番大事なことは、会社という財産を”使って”、あなたが会社や社会に何かを”与える”という発想です。(p42)


社会人10年目から自分のストーリーが面白くなる

・少し横道に逸れたついでに、もう少し選択の迷いについてお話しをしておくと、私自身は自分が重要だと思うことほど、人の意見は聞かずに自分1人で決めることにしています。その理由は簡単です。
 迷ったあげくに何か1つを選んで、後から悔やむようなことがあったとします。そのとき、もし事前に誰かの意見を聞いていたとすると、心のどこかで「あの人があのときああ言ったから」と、自分以外の人を責めて逃げ道を作ってしまうことがあるからです。人のせいにしてしまえば、自分には痛みがないので、いつまでもそれを引きずってしまいがちです。
 しかし自分1人で決めたことは、誰のせいにもできません。間違いなく自分のせいです。そこでいつまでも自分を責め続けるかというと、そんな疲れることはしないものです。だから自分1人で何かを決めたときは、たとえ後悔してもさっさと諦めて、次のことを考えるようになるのです。 
 一方で私の場合、いくつかの選択肢があってどれを選んでも構わないな、後で悔やむことはないなと思うことは、人に決めてもらうことがよくありあす。それはやはり、自分1人で選ぶために費やす時間を無駄だと感じているからです。自分ではない誰かにスパッと決めてもらうことに意味があります。
 *自分が楽しいと思う選択なら時間をかけても十分楽しむ
 *苦しいと思う選択でも、自分にとって重要で、間違えたら後で悔やむようなことは人に相談しない
 *どれを選んでもいいと心から思っていることなら、人に預けて決めてもらう
 この選択の基準は誰にでも役に立つと思います。ぜに試してみてください。(p68)


会社とは、レゴブロックで組み上げられた作品である

・あなたは、そのブロックの1つ、パーツとも言えます。
 パーツと言われてむっとしましたか?しかしながらひとかけらのブロックは、どんなに小さくても作品を作り上げるためになくてはならない大切なものです。だからこそ、自分がいったいどんな形や色をしていて、会社という作品ができあがるためにはどんな役割をしているパーツなのかを考えてみる必要があるわけです。
 ところが自分自身の形や色というのは、自分ではなかなか見えません。周りの人に教えてもらいながら、きちんと分析する必要があるのです。自分では見えていなくても、会社は「うちにはこういう形のこういうパーツが足りないから、どうしてもほしい」と思っていてあなたをそこに置いているのかもしれません。だから自分自身のことを勝手に評価しないで、周りの人に教えてもらうべきなのです。(p75)


どんな仕事にも社会的意味はある

・自分が何をやりたいか、今、何をやろうとしているのかは、言葉にすればするほど、自分でも確認できるようになるし、それが志になっていくのです。(中略)
 大切なことは、相手にわかってもらえるまで表現を続けること、そうやって伝える努力をすること。そして伝えることを諦めないということだと思います。(p83)


自分が選択すべきことはどれか?

・人間は迷ってばかりだけど、迷いがあるということは選択肢があるからだという話をしました。それは幸せなことですが、本当の幸せは自分の選択肢すらなく、「今やるべきことは1つ」という確信がある瞬間だと感じています。そいういう瞬間が、人生のうちに何回かあると思います。(p87)

・「迷いも選択肢もない瞬間」はそれぞれ時期も背景も違っています。しかし共通しているのは、「どんな困難があっても必ず幸せになる」という覚悟があったという点。自分が幸せになるという覚悟は、広く周りの人々も幸せにしていこうという覚悟です。そこから先に進んだとき、人々の求めているものを生み出そうという原動力になっていくと思っています。
 ではいざ、自分がやるべきことが目の前にいくつかあったとき、それらをどうやって選べばいいのか。答えは簡単です。順にやってみればいいのです。こちらの仕事をやっているうちに、別の仕事は同僚の誰かがさらっていってしまうこともあるでしょう。しかし、何かをやっている間に逃げていってしまったものは、最初から自分の選択肢ではなかったと考えればいいのです。自分が本当にやるべきことは、1つの仕事にかかりきりになっても、結局は何かの形で自分が関わる余地が残るはずだと思います。
 私はいつもこう考えています。掌(てのひら)の空いた部分にしか、新しいものは乗らない、と。(p90)


イノベーションは一部の天才のものではない

・そういうときにこそ、社会に求められることをどれだけ発想し、自分の手で実行していけるかが問われるとも思うのです。どうしようもない状況で、新しい何かを求めている人が自分以外にもいるはずです。逆境は何かを生み出す原動力に変えられます。いろいろな人たちの力になる、新しい価値を生み出せる。それこそがイノベーション的視点なのではないでしょうか。(p93)


自分の仕事の限界は決めない

・ではなぜ、「すでに得意なこと、好きなことで仕事したい」という考え方は止めるべきなのか? その理由を説明します。よく世の中で「好きなこと・得意なこと・自分らしくいられることを仕事にしよう!」と言われますが、そんなに大好きなことを仕事にできる人は、本当は僅かなのではないかと、経験から感じます。むしろ、「好きなこと・得意なこと・自分らしくいられること」なんて追及する必要はない。自分らしさにこだわって、「これは向かない」「これは嫌い」「これはできない」「これは感覚が違う」「これは実績がない」と言っていたら、人生先細りするばかりです。
 先細りした自分の中から「自分探し」をして「自分らしさ」と対話する人生を送り続けるくらいだったら、まずは行動して、「あれもこれも意外と好きになれる部分はあるものなのだ」と発見していく中に、仕事で必要とされることが見いだされていくと思うのです。(p100)


自分のビジョンを作るには

・自分のビジョンとはどのように作っていけばいいのかをここでは解説します。
 私自身もそうですが、実はビジョンとは自分が心の中に持っているものだと思います。ビジョンが丸々の形であるわけではないので、ビジョンの種とでも言えばいいでしょうか。自分がここまで通ってきた道は、一本の軸がすらっと通っているというわけではないという人が多いと思います。ですが、振り返ってみると自分が歩いてきた道筋のどこかにビジョンの核がちゃんとある。そういうものです。(p102)


「人生に無駄はない」のワナ

・人生の先輩たちはよく、「人生に無駄なことなんか1つもない」と言います。私はこの言葉は間違っていると思うのです。
 人生には無駄なことがたくさんあるという意味ではありません。「人生に無駄なことなんか1つもない」と実感した経験がなければ、いくら人からそう教えられても、絶対に理解できないと考えています。つまり、「人生に無駄なことなんか1つもなかった」と過去形で表現するのが正しいという意味です。
 自分自身の実感を伴って、過去形で語れるようになるまでは、人生のいろいろなことが無駄に思えるものです。特に大きなビジョンを掲げて、いざ自分が何かをやるかと言えば、膨大な書類を作るようにとか、とのかく外回りをしてくるようになど日々上司から命じられていると、ことごとく無駄だと感じても仕方がありません。腹をくくって、人生はどうせ無駄だらけだと割り切り、文句を言っている暇があるならさっさとやりたいことを見つけてそれをやろう、やりたいことが見つからないんだったらとりあえず与えられたことをやってみよう、とアドバイスしたい。(p104)


価値観の軸は3つ持つ

・会社員であっても、会社が決めた軸だけでいいわけはありません。私はみなさんに、軸を3つ持ってほしいと考えています。
 自分のポジションと達成度を測る3つの軸
 [1] 会社の中でどこまで高く昇れるのかという軸
 {2] 社外の交流会などに参加し、”他流試合”で自分の力を見極める軸
 [3] 自分や家族が基準となる幸せという軸(p117)


名前の見えない仕事で求められる=黒幕

・何を言いたかったかというと、表舞台に立たなければ観客は誰も知らないはずの黒子も、だんだん多くの人に必要とされるようになり、黒幕と呼ばれる存在に変わっていくということです。大事なのは、どれだけたくさんの人に必要とされる存在になるかです。(p122)


”1万分の3”の共通点

・私は、苦手な人とわかり合うには、その人の笑顔の瞬間をどれだけ知っているのかが重要だと思います。苦手意識や嫌悪感があると、ついついその人の仏頂面ばかり思い浮かべてしまいがちですが、素の笑顔を脳内再生できるようにするだけで自分自身の気持ちがずいぶん変わってきます。一緒に仕事をする以上、その人をできるだけ好きにならなければやりにくいわけですから、それなら好きになる努力が必要です。(p132)


ロールモデルポートフォリオのススメ

・苦手な人とうまくやっていくためにもう1つ、有効な手段を教えましょう。
 それは、苦手という自分の感情をちゃんと分析することです。私が苦手なこの人のいったいどこが、なぜ苦手なのか。それでは、この人にいいところや学ぶべきところはないのか。あるならそれはどこか。(中略)
 私がよく人に提唱しているのが、「自分のためのロールモデルポートフォリオを作ってみよう」ということです。ポートフォリオとは投資家が資産を投資する際の金融商品の組み合わせを指し、よく円グラフでその構成比率を表現します。同様に、あなたと同じ部署やすぐ近くにいる人たちのいいところ、真似したいところを抜き出して円グラフに取り込み、なりたい自分を作り上げてしまおうという手法です。(p133)


順番は、①長所を伸ばす、②欠点を直す

・一緒に仕事をするチームなら、互いの長所、得意なことを口に出して言える空気を作っていくことが、それぞれの力を伸ばす後押しになります。そうすることで、本人も自分が人より優れているところを意識するようになり、より能力を高めていけるからです。(中略)
 私自身は自分の部下に限らず、人を見るときにはとにかくいいところだけを見ようとしています。欠点はあえて探さなくてもすぐに見つかりますが、いいところを見つけるためには訓練が必要だと思うのです。(p139)(中略)
 私はよくいろいろな人から「奥田さんのところには、なぜこんなに人が集まってくるんですか」と質問されます。実は、その答えは自分でちゃんとわかっています。私のところに来れば、その人のいいところを探した上で、足りないところをきちんと教えるので、本人のモチベーションが上がるのです。(p141)


仲間の戦力を引き出す関わり方とは

・ここまでは主に上の立場から部下や後輩にどう接するのかという話しをしてきましたが、次に、上司や先輩といった目上の人に対してはどう接すればいいかを考えていきたいと思います。
 私は、誰かをリードして、指示を出すだけが会社を動かすということではないと思っています。上司にとっていい部下とは、上司の言うことを何でも聞く人ではなく、「自分が何をしたらこのチームは伸びるのか」を考え、上司をサポートする人です。誰かを支えるということもまた、立派に会社を動かし、伸ばしていく原動力となるものです。
 そこで部下は、上司がどういうタイプか、部下には何を求めているのかを、徹底分析してつかんでおくこと。まずはこれが上司の攻略法の出発地点です。(p145)


トラブルのときにチームの力量が表れる

・私だったら、怒りが頭をもたげかけたその瞬間の0.01秒で、こう考えます。「怒りが物事を進展させますか?」
 答えはもちろんNOです。私が怒っていることをわからせるのではなく、どういう現象が起きているかをわからせることが何より優先。そのためには怒鳴ったり机を叩いたりして感情を剥き出しにしたところで、逆効果です。
 そこで気を落ち着けて、悲しい顔で「で、どうしようか?」とミスをした部下や後輩に淡々と聞く。相手はこれで十分、怒られて当然の重大なミスを犯したということを意識します。この「どうしようか」と問いかけもてても大切です。
 「どうするんだ、お前がなんとかしろ」と言ってしまうと、それは途端に私の問題ではなく、ミスをした本人の問題になってしまいます。しかしこうした場面では問題を解決することが最優先ですから、誰か1人の問題にしてしまってはいけません。
 「どうしようか」という問いかけには、私もミスをした本人も、一緒に問題解決にあたっているというニュアンスが含まれています。問いかけられた相手は、その言葉に「With」という意味を感じ取れるのです。自分のミスに対して、責任者が自分たちの問題として一緒に向き合ってくれているとなれば、本人が責任とプレッシャーを感じて即座に動くものです。(p149)


自分が組むべき相手がわかる瞬間

・さまざまなトラブルの経験を積み重ねて、私が学んだことがあります。「ピンチはチャンス」と世の中でよく言われる言葉ですが、これには3つの意味があるということです。
 「ピンチはチャンス」の3つの意味
 [1] 本当の仲間を見極めるチャンス
 {2] 自分が最高のエネルギーを出せるチャンス
 [3] 自分が本当にやりたかったことは何か、棚卸しをするチャンス(p156)


自分の常識も価値観も無意味だ

・もう25年以上も前の話しですが、インドでは北部の貧困地域から都市部にたくさんの女の子たちが売春婦として売られてきていました。年齢は8~10歳くらいが多かったでしょうか。売春宿が摘発されると、幼い売春婦たちは更正施設へと送られてくるのです。
 施設ではその女の子たちに読み書きやタイピング、音楽、裁縫や刺繍などの手仕事を教えます。そうした教育の一環として、倫理教育も行います。つまり、売春がなぜいけないのかを教えるわけです。
 彼女たちは生まれたときから食うや食わずの生活を強いられ、売春宿に連れてこられたときには、とにかく毎日飢え死にしないだけの食事ができるだけでも幸福だと思って生活していました。ところが、その考えは人間として間違っているということを教えらえられたおかげで、罪悪感を抱くようになります。
 彼女たちは10代半ばの自立出来る年齢になると、その施設を出て行かなければなりません。しかし少々教育を受けたからといって、恵まれた職に就ける少女はほとんどいないのが現状です。結局は元の売春婦に戻っていくしかない子も大勢います。その挙句に、中には罪悪感に耐えきれず、自殺してしまう子もいるというのです。
 そんな現実にぶち当たったとき、更正とはいったい何なのかと考えました。施設側は、幼い少女たちが売春などしなくても生活できるようにと、たくさんの手仕事を教えます。私たちのフィールドワークの学生も一生懸命になって一緒に歌を歌ったり、アルファベットの書き方を教えたりします。そういう行為の1つひとつが彼女たちのためになると思ってやっているのです。しかしそれが彼女たちをまったく幸せにしていないという現実は、私たちを無力感で打ちのめしました。そして何が正しくて、何が間違っているのかわからなくなってしまいました。
 しかしながら、いろいろ迷いや疑問があっても、その理念に照らして正しいと思うことを続けていくしかないのです。(p183)


日本全国のエネルギー総量を上げるには

・私が「会社を辞めないという選択」という本を書いているのは、終身雇用が崩れていくこれからの社会では、「しがみつくための会社を辞めない」という消極的なマインドではなく、能動的に選択した「組織を巻き込んで社会に何かを生み出すために会社を辞めない」というマインドが必要になると確信を持っているからです。
 どの選択をした時点でも、社会に何かを創造するという姿勢においては、同じマインドが必要になってくるはずです。(p188)


おわりに

・私の経験から言えることですが、そのとき置かれている自分が”能動的に選択”したものであれば、その選択の蓄積によって結果的には必ずそれが”人生にとってただしいものになる”ということです。”能動的に選択”するということは常に自分が最大限にできることを洗い出し、その瞬間に一番良い自分を選んでいるはずだからです。(p193)